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主な対象疾患

[1]下垂体部病変(下垂体腺腫・頭蓋咽頭腫・ラトケ嚢胞・鞍結節部髄膜腫)
[2]先端巨大症(アクロメガリー)
[3]脳動脈瘤(未破裂・破裂)
[4]頸動脈狭窄症
[5]脳腫瘍・頭蓋底部病変



[1]下垂体部病変

神経内視鏡を用いた安全で確実な治療
難治性の不妊症・月経困難症・高血圧症・糖尿病でお悩みの方は、一度精査をお奨めします。

1.脳下垂体について

脳下垂体は大脳の下にあり、大脳から下に垂れさがる形をしています。物を考えたり手足を動かしたりする大脳と異なり、脳下垂体はホルモンを分泌しています。

<下垂体の位置>

<下垂体のMRI>


2.ホルモンについて 

 生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達物質です。健康維持のための機能を調節する働きがあります。体の健康を保つ為の潤滑油のようなものです。ホルモンは巧みに調整されていて、多すぎたり、少なすぎたりするとさまざまな疾患を引き起こします。脳下垂体から分泌されるホルモンには、以下のようなものがあります。


(1)成長ホルモン(GH)

成長ホルモンは、成長期に身長を伸ばす働きをします。成長期を過ぎても一生涯分泌され、筋肉や脂肪に働いて代謝を調節して身体機能を整えます。また、心理的な快活さを生み出す効果もあります。
→このホルモンを過剰に分泌する腫瘍が成長ホルモン産生下垂体腺腫です。小児期では巨人症、思春期以降では先端巨大症(アクロメガリー)の原因となります。

(2)プロラクチン(PRL)

プロラクチンは、乳腺の発育・妊娠の継続に関与します。
→このホルモンが過剰になるのが、プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)です。月経不順・無月経・乳汁分泌がみられます。また不妊症の原因の一つにもなります。

(3)副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)

ACTHは腎臓の上にある副腎に作用してコルチゾールというステロイドホルモン産生に関与しています。コルチゾールは、体温・血圧・血糖・電解質などの身体を維持するための代謝調節を行っています。
→このホルモンが過剰になるのが、ACTH産生下垂体腺腫です。別名、Cushing病と呼ばれます。Cushing病では、高血圧症・糖尿病の他、月経不順・骨粗鬆症・肥満などが見られます。

(4)甲状腺刺激ホルモン(TSH)

甲状腺に働いて甲状腺の機能調節を行っています。
→このホルモンが過剰になるのが、TSH産生下垂体腺腫です。甲状腺ホルモンが過剰となり、動悸、頻脈、振戦(手の振え)、発汗過多、体重減少、眼球突出などの症状が出現します。

(5)その他のホルモン

臨床的に問題となることはほとんどありませんが、以下のものがあります。
・性腺刺激ホルモン:男性では精子形成、女性では月経を調節する働きがあります。
・抗利尿ホルモン:腎臓に働いて尿量を調節し、身体の水分調節を行っています。
・オキシトシン:分娩時に子宮の収縮を促す作用があり、乳汁分泌を促す働きをします。

3.下垂体腺腫について

脳下垂体腫瘍の中で最も多い良性の腫瘍です。脳腫瘍の中で3番目に多く、脳ドックでもしばしば発見される病気です。ホルモン分泌が過剰である腫瘍(機能性下垂体腺腫)と過剰ではない腫瘍(非機能性下垂体腺腫)があります。


4.下垂体腺腫の症状

下垂体腺腫には以下のような症状が見られます。
○ 最近目が悪くなった(メガネを調整してもよく見えない):下垂体腺腫全般
○ 乳汁が出る:プロラクチノーマ
○ 不妊治療をしても妊娠しない:プロラクチノーマ
○ 生理が不規則になった・生理が止まった:プロラクチノーマ、アクロメガリー、クッシング病
○ 靴のサイズが変わった、噛み合わせが悪くなった、指輪のサイズが変わった、急激に太った、治療しているのに血圧や血糖値が改善しない:アクロメガリー、クッシング病

◎ 視野・視力障害
腫瘍が真上にある視神経を圧迫することによって、視野・視力障害が生じます。代表的なものは「両耳側半盲」と言って外側の視野が徐々に欠けてきます。放置すると失明に至ります。

健常人のMRI

下垂体腺腫のMRI



ホルモンを過剰に分泌する下垂体腺腫は、以下のような特徴的な症状が出現します。
・プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)
女性では、無月経(月経不順)や乳汁漏出が起こります。不妊症の原因にもなります。男性ではインポテンツとなることがあります。

成長ホルモン産生腺腫(アクロメガリー/先端巨大症/下垂体性巨人症)
特徴的な身体の変化が見られます。顔貌変化(前頭部・下顎が突出、鼻・口唇・耳が大きくなる)、手足、指が大きくなります。靴のサイズが大きくなったり、指輪のサイズが変わったりします。小児では身長が異常に伸びて来ます(下垂体性巨人症)。成長ホルモン産生腺腫にも月経不順や無月経が生じます。また、高血圧症、糖尿病、心疾患、悪性腫瘍を合併するため、放置すると死亡率は健常人に比べて2~3倍近くになるとの報告があります。

・副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病)
特徴的な体型の変化(中心性肥満、満月様顔貌、多毛など)と全身合併症(高血圧症、糖尿病、月経異常、低カリウム血症、骨粗鬆症、筋力低下など)が見られます。放置することにより死亡率が高くなります。
診断が難しいため専門的な判断が必要です。当院では、通常のMRI撮影に加えて「海綿静脈洞サンプリング」を行って診断の精度を上げています。

海綿静脈洞サンプリング。高度な診断技術を要します。


5.下垂体部腫瘍の治療

下垂体腺腫の治療の原則は、手術治療です。手術法は、経蝶形骨洞手術(ハーディー手術)とよばれる方法で、鼻の奥を経由して腫瘍を下から摘出します。一般的な市中病院では、上唇の裏の歯茎に切開を加えて行っていますが、当院では、キズを作ることなく、鼻の穴から神経内視鏡を挿入して手術を行います。手術時間は約2-3時間で、翌日から食事もできます。手術後1週間から10日間で退院可能となります。
また、プロラクチン産生下垂体腺腫の治療の基本は薬物療法ですが、1回の手術治療により完治する場合があります。手術治療が可能な場合は提案させて頂いております。
術後は、耳鼻咽喉科と共同で丁寧に鼻内の処置を行います。病院によっては、耳鼻咽喉科が全く関与しないところも多々見受けられます。耳鼻科的な処置を行わないと鼻内粘膜の癒着や嚢胞(のうほう)を形成し、つらい思いをすることになります。

一般市中病院における下垂体手術
        

上唇の裏の歯茎に切開するため口腔内にキズが残ります

当院の手術直後の様子

外見上、キズが残りません




「内視鏡下経蝶形骨洞的腫瘍摘出術:より安全・確実な手術を目指して」
当院では、片方の鼻の穴から内視鏡と器具を入れて手術を行います。鼻の奥の粘膜を少し切開し、その奥から腫瘍を摘出するため低侵襲な手術を行うことができます。
神経内視鏡を用いることによって、広い視野を確保し死角を少なくすることができるため、安全で確実な手術を施行することが可能になりました。下垂体の周囲には、頸動脈や視神経など重要な構造物が集中しているため、神経内視鏡を用いて病変と正常構造を見分けることが重要です。こうすることによって合併症を回避し、腫瘍の摘出率向上することを目指しております。
神経内視鏡手術は、一般的な脳神経外科の手術と異なり熟練した技術が要求されます。当科では、経験を積んだ日本神経内視鏡学会の技術認定医が執刀いたします。



神経内視鏡を用いた手術のイメージ。
神経内視鏡を用いると病変をはっきり観察することができます。
  病変を取り残すことなく摘出したところです。


6.下垂体腫瘍に対する手術件数(術者がこの手術に携わってから350例を超えました)



7.手術実績

下垂体腺腫は腫瘍の拡がりによってグレード1から4まで分類されます。グレードが高いほど手術の難易度は高くなります。当科でのグレードごとの全摘出率をお示しいたします。神経内視鏡を導入することにより高い摘出率を誇っています。神経内視鏡により病変を詳細に観察することによって、正常下垂体組織の機能を温存できる例が増えてきました。正常下垂体機能温存率は、93.3%になりました。重症合併症・死亡率は0%です。

グレード1

                   

         グレード4


Knosp (ノスプ) グレード

1

2

3

4

全摘出率 (%)

98.6

93.2

89.8

69.8



8.その他、下記疾患においても内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術を施行しております。

・頭蓋咽頭腫
・ラトケ囊胞
・髄膜腫 [傍鞍部髄膜腫]
・胚細胞腫瘍(ジャーミノーマ)[神経下垂体ジャーミノーマ]
・脊索腫(コルドーマ)
・リンパ球性下垂体炎

担当 谷岡 大輔 専任講師
[ 日本間脳下垂体腫瘍学会・日本内分泌学会・日本神経内視鏡学会技術認定医 ]
・初診外来は月・木曜日に行っております。可能な限り紹介状をお持ちください。
・初診の方でも診察予約ができます。
  電話 (045)949-7143
・予約が無くても結構です。8:30-11:00に初診受付にお越しください。



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[2]先端巨大症(アクロメガリー)

1.アクロメガリー(先端巨大症)とは

成長ホルモンの過剰分泌により、身体の変化・代謝異常が見られる病気です。適切な治療が施されなければ、重度の合併症を引き起こし生命予後も悪くなってしまいます。以前は末端肥大症と呼ばれていたこともあります。アクロメガリーは希少疾病で認知度が低いうえに、専門医ではない各診療科の先生方は実際に診療する機会が非常に少ないため見逃されている患者さんも相当数存在すると言われています。
なかなか良くならない高血圧症・糖尿病や無月経・不妊症に隠れていることがあります。
原因のほとんどは、「成長ホルモン産生下垂体腺腫」です。

下垂体腺腫のMRI



2.アクロメガリーの症状

「下垂体腺腫そのものによる症状」と「成長ホルモンが過剰のためにおこる症状」があります。
→ 下垂体腺腫については、こちらをご覧ください。

◎ 成長ホルモンが過剰のためにおこる症状

1) 顔貌の変化

・眉間(みけん)・頬骨の突出
・下顎の突出 → 噛み合わせが悪くなる
・鼻、口唇、耳たぶ、舌:分厚く大きくなる(舌が大きくなることにより睡眠時無呼吸の原因にもなります)

特徴的な鼻翼の増大と分厚くなった口唇の写真


2) 手・足の変化:サイズが大きくなる

 

・以前入っていた指輪、手袋が入らなくなる
・足のサイズが大きくなる

3) 月経の異常:月経不順、月経が止まる

4) 代謝の異常:治療してもなかなか良くならない「糖尿病」「高血圧症」「高コレステロール血症」

5) 皮膚の変化

・皮膚が分厚くなる:握手をするとゴツゴツした感触がする
・発汗が多くなる

 

3. アクロメガリーの診断

厚生労働省の研究班による「先端巨大症の診断の手引き」があり、これに基づいて診断します。項目がいくつかありますが、採血検査で「成長ホルモン(GH)」と「インスリン様成長因子-1(IGF-1)」を測定することによりアクロメガリーが疑われるかどうかをスクリーニングすることができます(が、健康診断の採血項目に含まれていません)。日常的な採血検査では、この項目が含まれていない印象があります。簡単にまとめると「臨床症状」「成長ホルモンに関連する採血検査」「頭部MRI検査」により診断します。

 厚生労働省の間脳下垂体機能障害に関する調査研究班により「先端巨大症の診断と治療の手引き」が作成されています。

Ⅰ.主症候

1)手足の容積の増大
2)先端巨大症様顔貌(眉弓部の膨隆、鼻・口唇の肥大、下顎の突出など)
3)巨大舌

Ⅱ.検査所見

1)成長ホルモン(GH)分泌の過剰
   血中GH値がブドウ糖75g経口投与で正常域まで抑制されない
2)血中IGF-I(ソマトメジンC)の高値
3)MRIまたはCTで下垂体腺腫の所見を認める

Ⅲ.副症候および参考所見

1)発汗過多  
2)頭痛  
3)視野障害  
4)女性における月経異常  
5)睡眠時無呼吸症候群  
6)耐糖能異常  
7)高血圧  
8)咬合不全  
9)頭蓋骨および手足の単純X線の異常

診断の基準
  確実例:Ⅰのいずれか、およびⅡをみたすもの

 

4.アクロメガリーは、なぜ治療しなければならないか?

成長ホルモンの過剰な状態が長期に持続すると、さまざまな合併症が出現します。何も治療をしないと一般健常人に比べて死亡率が2-4倍になり、寿命が平均10-15年短くなることが報告されています。しかし適切に治療を施すことによって、ほとんどの方は健康な生活を送ることができます。

◎ アクロメガリーにみられる合併症

1) 心血管障害:狭心症・心筋梗塞・心不全

2) 脳血管障害:脳梗塞・脳出血

3) 悪性腫瘍:とくに大腸がんの発生が多くなります

4) 呼吸器疾患:睡眠時無呼吸症候群

5) 月経不順・無月経・不妊症:不妊症の原因として、しばしば見逃されます

 

5.アクロメガリーの治療

◎ 治療の原則は、「手術治療」です。治癒が望める唯一の方法です。
→ 手術で治癒可能な腫瘍を確実に摘出するのが、最善の方法です。(一般市中病院では、「手術でおおまかに腫瘍を摘出して、あとは薬物治療を」と考えている先生が少なからずいますが、初回の手術が最も重要です。)全身合併症のため、全身麻酔、手術が困難な場合を除いて、手術療法が第一選択の治療(まず行うべき治療)です。

当科では原則として「内視鏡下経蝶形骨洞的腫瘍摘出術」を行います。内視鏡を導入することにより、病変を詳細に観察して摘出率の向上に努めています。内視鏡下経蝶形骨洞的腫瘍摘出術はこちらをご参照ください。
→ アクロメガリーの手術治療の鍵は、「被膜外摘出」です。腫瘍だけでなく腫瘍を包んでいる被膜ごと摘出すると治癒率が向上すると言われています。神経内視鏡は、術野をより鮮明に観察できるハイビジョン対応のCCDカメラを搭載しており、被膜外摘出をより可能とします。

◎ 手術治療による治癒率  
アクロメガリーでは、コルチナコンセンサスという厳格な内分泌学的治癒達成基準があります。具体的には、血中成長ホルモン値がブドウ糖75g経口投与により0.4ng/mL未満にまで抑制されることが求められます。当院では、神経内視鏡手術を導入することにより治癒達成率が向上しております。
当科における治癒達成率は以下の通りです。Knosp(ノスプ)グレードとは、トルコ鞍内に限局する小さな腫瘍がグレード1、トルコ鞍の外側にある海綿静脈洞への腫瘍伸展が強くなるほどグレードが高くなります。Knosp 4を手術のみで治癒基準を達成するのは困難ですが、神経内視鏡を導入することによって手術成績が向上してきました。


当科におけるアクロメガリーの手術による治癒基準達成率

Knosp (ノスプ) グレード

1

2

3

4

手術による治癒基準達成率 (%)

100

100

89

62



◎ アクロメガリーに対する集学的な治療  
アクロメガリーの治療で重要なのは、前述のとおり手術治療ですが、海綿静脈洞に大きく浸潤している腫瘍は、残念ながら完全摘出は困難です。厳格な内分泌学的治癒基準では、手術による全摘出率は50-70%程度と報告されています。このような場合は、手術治療に加えて「薬物治療」「定位的放射線治療」を組み合わせる必要があります。そのため、当院では内分泌内科専門医と一緒に治療を行っております。

○ アクロメガリーに対する薬物治療

1) ソマトスタチンアナログ
酢酸オクトレオチド(サンドスタチン®)、ランレオチド酢酸塩(ソマチュリン®)
→ 注射製剤です。成長ホルモンの分泌を抑制します。腫瘍が縮小する例もあります。

2) ドパミン作動薬  ブロモクリプチン(パーロデル®)、カベルゴリン(カバサール®)  
→ 内服薬です。ソマトスタチンアナログと併用することでよりよい効果が得られるとの報告があります。

3) 成長ホルモン受容体拮抗薬(成長ホルモンアンタゴニスト)  ペグビソマント(ソマバート®)  
→ 注射製剤です。ソマトスタチンアナログとドパミン作動薬と組み合わせて使用します。

○ アクロメガリーに対する定位的放射線治療  

手術治療・薬物治療により治療効果が十分得られない場合は、ガンマナイフやサイバーナイフ治療を補助的に行います。

アクロメガリーの診断・治療は複雑であり、内分泌専門医(下垂体専門の脳外科医・内分泌内科医)による厳格な治療を必要とします。アクロメガリーが疑われる方は、是非、ご相談ください。


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[3]脳動脈瘤(未破裂・破裂)

昭和大学グループの600例の手術治療実績を踏襲

【脳動脈瘤とは】

脳の動脈の分岐部にできた風船状の嚢状動脈瘤と、脳の血管自体が膨らんでできた本幹動脈瘤(解離性脳動脈瘤)があります。
・嚢状動脈瘤:破裂するとくも膜下出血を生じますが、破裂しない限りは基本的に無症状です。 一般的には、脳動脈瘤と言えば、嚢状動脈瘤のことをさします。  
・本幹動脈瘤:破裂してくも膜下出血になるものや、脳梗塞になるもの、無症状で安全なもの、進行性に大きくなり脳を圧迫するものなど病態の異なるいくつかのタイプがあります。




【くも膜下出血との関連】

脳動脈瘤が破裂するとくも膜下出血になります。くも膜下出血は、人口10万人に対して年間約12人の割合で発症する重篤な病気です。いったん、くも膜下出血になると50-60%の人が、死亡や寝たきりになります。脳動脈瘤は、破裂しない限り大多数の例で症状がなく、破裂した瞬間に、激烈な頭痛を生じたり、急に昏睡状態になったります。

【破裂率について】

日本における未破裂脳動脈瘤の自然歴についての報告が2012年6月に発表されました(New England Journal of Medicine)。6697個の動脈瘤について調査され、治療されていない未破裂脳動脈瘤の「破裂率は平均0.95%/年」という結果が出されました。動脈瘤の部位、大きさと破裂率の関係も報告されました(表参照)。
生涯破裂率は、これに余命見込み年数をかけ合わせて、さらに大きさ・場所やその他の条件を勘案して算定します。例えば60才の女性で、平均的な動脈瘤が発見された時に、余命は約30年ありますから、生涯破裂率は 約1 % x 30 = 約30% 程度と計算します。

【動脈瘤の部位、大きさと破裂率の関係】

年間破裂率(%) 中央値のみ示します


【治療法】

動脈瘤の破裂を予防するには、現在、2通りの方法があります。

1 開頭手術 (開頭クリッピング術)

動脈瘤は脳の溝の間に埋まっています。この溝を丁寧に剥離して、クリップをかけて破裂を予防する手術です。クリップで動脈瘤の根元の部分を閉塞すると動脈瘤を完全に血流が通わない状態にすることができます。クリップはいろいろな形状のものがあります。殆どチタン性のものを使用しており、術後にMRIも可能です。手術は部分剃毛で行うため、手術創はほとんど目立ちません。また脳の部分はすべて手術顕微鏡による微細な操作で行います。

障害を残さず、安全に手術できる可能性は約95%、後遺症が生じる確率は5%、死亡率 0.2 - 1.0%程度が平均的な報告されている数字です。全国主要大学病院の、未破裂脳動脈瘤の手術の平均在院日数は、厚生労働省の調査より26.4日と報告されています。
当科では昭和大学グループのノウハウを踏襲した多数の手術経験のある術者が、個々の動脈瘤に対して手術の安全性を90-99%の間で予測して説明しています。この数字に幅があるのは、動脈瘤の大きさ、形状、部位によって手術の難易度が異なりまた、既往歴や年齢によっても手術リスクが異なるからです。後述する血管内治療に比べて、手術の最大の利点は根治性があることです。一旦クリップがかかれば、ほぼ生涯にわたって破裂を予防できます。日本では現在、動脈瘤手術の80-90%が、開頭クリッピング術です。




2 血管内治療(カテーテルによるコイル塞栓術)

カテーテルによる治療です。脚の付け根の血管からカテーテルを挿入し、脳の血管まで進めていきます。そして、コイルと呼ばれるプラチナ製のやわらかい糸状のものを動脈瘤へ詰めます。非常に繊細な治療ですので、局所麻酔でも治療は行えますが、主に全身麻酔にて行っています。当院では、最新鋭および最上級のアンギオ装置にて治療を行います。

 

動脈瘤塞栓術に用いるコイル




脳動脈瘤塞栓術の長所と短所
この治療の長所は、手術とは異なり“切らずに治療が出来る”ことで、頭の皮膚を切ったり頭蓋骨を開けたりする必要がありません。そのため、手術後に頭部に傷が残ったり、その傷が化膿したりするといったことはありません。また、血管の中から直接動脈瘤に到達できるため、手術と違って脳に触れずに治療することが可能です。そのため、脳の深部など手術にて到達が困難である部位の動脈瘤に対しては積極的にカテーテル治療が行われる事が多いです。

しかし、この治療にも欠点があります。動脈瘤が再び大きくなったり、留置したコイルがつぶれたりして、再治療が必要となる可能性は手術より高いです。また、治療を行った血管に血栓が付くなどして脳の血管が詰まってしまい脳梗塞をきたすことがあります。この予防のために、血を固まりにくくする薬(抗血小板薬)などを使用します。


手術とカテーテル治療、どちらが良いのか?
手術、カテーテル治療とも一長一短です。それぞれ得意な動脈瘤と不得意な動脈瘤があります。動脈瘤の形状や発生部位、年齢、他に患っておられる病気などを熟慮し、治療方針を検討することが重要です。そのため、手術に適しているのかカテーテル治療が望ましいるのかを、患者さんごとにそれぞれのエキスパートが相談して決めるのが望ましいと我々は考えています。

[4]頸動脈狭窄症


脳梗塞のメカニズム


総頸動脈撮影




総頸動脈は内頸動脈と外頸動脈の2本に分かれ、脳を栄養するのは内頸動脈で、この動脈に狭窄が起こると血栓が飛びやすくなったり、血流が障害されたりして脳硬塞となる可能性が高くなります。動脈の構造は断面でみると,外膜、中膜、内膜から構成されています。頚部頚動脈狭窄は動脈硬化のため、血管内膜の肥厚によっておこります。  
内膜肥厚部には、血栓、出血、コレステロール、石灰化が存在します。それが、何らかの理由で動脈に流れ出し,脳梗塞を引き起こします。

(症状)  脳梗塞を起こして、上下肢の麻痺、しびれ、言語障害、視野欠損、痴呆などをきたし、ひどい場合は意識障害も伴い、寝たきりや植物状態になったり、死亡したりすることもあります。原因の大半は狭窄部からの塞栓と言われています。24時間以内(大部分は数分以内)にこのような症状が消える場合は一過性脳虚血発作と言います。また、一過性(数秒から数分以内)に片側の目が見えなくなることがあり、一過性黒内障と呼ばれます。これらは「もうすぐ脳梗塞になるぞ」という警告症状とも考えられ、適切な治療を行なうことが重要です。

(脳梗塞予防法) 1.内服薬(バファリンなど) 2.手術(内膜剥離術) 3.血管内手術(ステント留置)があります。  

現在までに種々の大規模な研究が行われ、以下に示すように頸動脈血栓内膜摘徐術の脳硬塞予防効果が薬物療法より優れている事が統計学的に証明されています。

(1) 症候性内頸動脈狭窄症(症状のある場合)-2年間の観察

脳虚血症状を有する70%以上の内頸動脈狭窄症の場合

 

薬物療法(%)

手術(%)

相対危険率減少(%)

同側脳梗塞発生率

26

9

65


(2) 症候性内頸動脈狭窄症(症状のある場合)-5年間の観察

脳虚血症状を有する50-69%以上の内頸動脈狭窄症の場合

 

薬物療法(%)

手術(%)

相対危険率減少(%)

同側脳梗塞発生率

22.2

15.7

29


(3) 無症候性内頸動脈狭窄症(症状のない場合)-5年間の観察

脳虚血症状のない60%以上の内頸動脈狭窄症の場合

 

薬物療法(%)

手術(%)

相対危険率減少(%)

同側脳梗塞発生率

11

5.1

53



すなわち、頸動脈血栓内膜摘徐術は、症状があって70%以上の内頸動脈狭窄がある場合が一番有効で、これほどではありませんが、症状のある50~70%の内頸動脈狭窄に対しても有効です。また、たとえ無症状であっても、60%以上の内頸動脈狭窄がある場合は、やはり薬物療法より優れています。当院では安全性の面からも手術を第一選択としています。

内頚動脈内膜剥離術 Carotid endarterectomy (CEA) について
内頚動脈の狭窄部位をきれいにすることにより、塞栓源を除去するとともに内頚動脈の血流量を増加させ血行力学的な異常を矯正できます。これによって将来の脳梗塞を予防することが目的です。
(手術手順)
① 手術は全身麻酔下で人工呼吸とするために経鼻挿管をします。これは手術中の視野を確保しやすいためと、術後翌日朝まで留置するのに都合がよいためです。脳波をモニターしながら手術します。
② 下図のように頚部を切開して、内頚動脈を露出し、動脈を切開してシャントを入れ血流遮断による脳の障害(虚血)を防ぎます。
③ 血管内部のアテローム斑をきれいに剥離してから頸動脈を縫い直して閉じます。皮下にドレーンを入れて、 皮膚縫合し手術終了です。

麻酔を一時覚まして、麻痺や言語理解に異常がないか確かめます。その後また軽く麻酔をかけて入眠します。その後はICUに入室し翌朝まで挿管したままにします。翌朝、異常を認めなければ挿管チューブを抜き病棟に帰ります。 
術後3日は、首の安定のために、ポリネックをしていただきます。
経過良好であれば、手術後1週間で抜糸します。術後脳血管撮影を施行して、狭窄部位の確認をいたします。

      


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[5]脳腫瘍・頭蓋底部病変

◎ 髄膜腫

髄膜腫は、脳を覆うクモ膜から発生する良性脳腫瘍です。脳のまわりのどの部位にも発生しますが、発生部位によって円蓋部髄膜腫・傍矢状洞髄膜腫・大脳鎌髄膜腫・蝶形骨縁髄膜腫・鞍結節部髄膜腫・テント髄膜腫・錐体斜台部髄膜腫・大孔部髄膜腫・他などがあります。髄膜腫は脳ドッグなどにより発見される頻度が高くなってきました。髄膜腫はすぐに手術治療が必要になるわけではありません。病変が増大傾向にある時やなんらかの神経症状があるときに手術治療を提案させて頂きます。また、小さくても脳の深部にある時は手術をお奨めすることがあります。
大脳鎌髄膜腫は、脳の浅い部分に発生するため比較的容易に摘出が可能です。手足の麻痺やてんかん発作で発症することもありますが、難治性頭痛や認知症に似た症状で発見されることもあります。
傍矢状洞髄膜腫は、矢状静脈洞という大きな静脈を巻き込むことがあり、摘出を困難にしています。
蝶形骨縁髄膜腫・鞍結節髄膜腫・錐体斜台部髄膜腫・大孔部髄膜腫などは、頭蓋底部腫瘍と言われています。これらの腫瘍は、神経や血管などが巻き込まれている場合があり、頭蓋底外科手術に精通した経験豊富な術者による手術が必要となります。脳ドッグなどで、これらの病変を指摘された方は、当科へご相談下さい。頭蓋底外科のエキスパートが、一人ひとりの患者さんに合った治療を提供いたします。
髄膜腫には腫瘍を栄養する太い動脈が流入していることがあり出血が多くなることがあります。当院では処置可能な動脈があれば、術前にカテーテル治療で血管を塞いでから手術に臨み、出血量を減らす工夫もしています。

(頭蓋底部の巨大髄膜腫のMRI画像)

手術前

手術後


◎ 神経鞘腫 

神経鞘腫は、神経を保護している鞘の細胞から発生します。前庭神経鞘腫(通称:聴神経腫瘍)、三叉神経鞘腫、舌咽神経鞘腫などがあります。
前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)は、耳の聞こえが悪くなるほか、その周りの神経を圧迫することによりふらつき・頭痛・物が二重に見える・顔面の感覚異常・顔面の麻痺など様々な症状が出現します。さらに大きくなると、手足の麻痺や飲み込みが悪くなるなどの症状もまれに見られます。
神経鞘腫は良性の腫瘍ですので、見つかると同時に手術治療が必要という訳ではありません。手術による治療の他に定位放射線治療(ガンマーナイフやサイバーナイフ)または、経過観察などがあります。腫瘍が増大傾向にあるものや腫瘍が小さくても症状がある場合には、手術治療が必要になることもあります。発見時に大きさが3.0cmを超えるものは、定位放射線治療の適応外であり、すでに正常脳を圧迫していることが多いため、手術治療が必要になります。
腫瘍は、顔面神経や舌咽・迷走神経(飲み込みに関する神経)と癒着していることがほとんどであるため、術中に電気刺激による脳波を測定しながら摘出操作を行う必要があり、設備を備えた病院での治療が必要です。脳ドッグなどで、神経鞘腫を指摘されましたら、当科へご相談下さい。患者さん一人ひとりに合った治療を提案させて頂きます。

(前庭神経鞘腫[聴神経腫瘍])の MRI

手術前

手術後


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