ホーム > トピックス一覧(2013年度) > 血液1滴から7分でがんを診断する新技術を開発

血液1滴から7分でがんを診断する新技術を開発

2013年10月8日

血液中たんぱく質の網羅的検出によるがん関連物質の定量

昭和大学横浜市北部病院消化器センター 伊藤寛晃講師の研究チームはこのたび、表面増強ラマン散乱を応用したバイオチップを用いた「超早期がん診断」技術の開発に世界で初めて成功しました。
血液1滴からわずか7分で胃がん、大腸がん、良性疾患の識別ができ、簡便・低コストであることが大きな特徴です。データ蓄積と精度を確認し早期実用化を目指します。

研究概要

疾患の治療成績向上、また医療費削減の観点からも、病気の超早期診断のための次世代医療技術の開発は急務です。特に、我が国でも死因の第一位を占めるがんに対する高感度診断法の確立は非常に重要であり、世界各国で研究開発が行われています。

昭和大学横浜市北部病院 消化器センター 講師 伊藤寛晃、国際消化器内視鏡研修センター 教授 井上晴洋、消化器センター長 工藤進英、有限会社マイテック(神戸市中央区港島南町6丁目7-4 神戸健康産業開発センター101号室)の研究チームは、表面増強ラマン散乱を応用した純国産技術からなるバイオチップを用いた新規がん診断法の開発に世界で初めて成功しました。臨床試験の結果、ごく少量の血液 (血清2μl)による簡便迅速な判定で、胃がん、大腸がん、良性疾患の識別、病期の推測が可能であることが確認されました。

本技術は新しい理論・技術に基づく超高感度測定法であり、既存の検査法を大幅に上回る超早期診断が可能となると推測されます。がん診療分野において、検診、治療効果判定、再発診断など、画期的な成果をもたらすと期待されます。また、非常に簡便であることが特徴です。これから、さらに多くのデータを蓄積して精度を確認したうえで、なるべく早く臨床に応用していきます。

これらの成果は、「Nanomedicine: Nanotechnology, Biology and Medicine」誌に発表されます。

研究発表者

昭和大学横浜市北部病院 消化器センター
講師 伊藤寛晃

昭和大学横浜市北部病院 消化器センター
昭和大学国際消化器内視鏡研修センター
教授 井上晴洋

昭和大学横浜市北部病院 消化器センター
センター長 工藤進英

研究の背景

研究チームは、がん患者の血液中に入り込み全身を回る「循環がん細胞」に関する研究を行い、「循環がん細胞」ががんの予後推定など診療に役立つことを示してきました(Prognostic impact of detecting viable circulating tumour cells in gastric cancer patients using a telomerase-specific viral agent: a prospective study. BMC Cancer. 2012; 12:346.)。しかし、一方で血液中の循環癌細胞数は少なく、がんがある程度進んだ状態でないと見つけることが困難であるため、現在の技術では「超早期がん診断」への応用は難しいと考えられます。そのため、早期発見早期治療を実現する新たな「超早期がん診断」技術の開発を開始しました。

表面増強ラマン散乱 (SERS: Surface-Enhanced Raman Scattering)(用語解説1)は極小物質の超高感度検出が可能であり、応用物理学の世界では、単一分子測定が可能な「夢の検査法」と言われ注目されてきました。しかし、その実用化には、ナノ領域を超える原子、分子レベルでの緻密な設計制御が必要とされており、産業分野での半導体基盤の精度管理などに応用されるにとどまっています。

研究チームは、従来の物理的加工法によるナノデバイスではなく、化学的手法により「3次元自己組織化結晶(量子結晶)」(用語解説2)を金属チップ上に作成しました。このチップ上に血液中の塩基性たんぱく質を吸着結合させることで、簡便、迅速に行える超早期がん診断を可能とする新しい技術の開発に成功しました。

研究の内容

治療前の状態の患者から末梢血を採血し、遠心分離により血清を得ます(通常の臨床検査に使用される検体と全く同じです)。10倍に希釈した血清20μl(血清原液で2μlに相当)をバイオチップ上に添加、レーザーを照射しSERS散乱波形を記録しました。解析の結果、バイオチップに結合した塩基性タンパク質は、良性疾患群ではほとんど認められず、胃がん・大腸がん群で有意に多く検出されました。また、がん群の中では早期がん群よりも進行がん群で多く検出されることが分かりました。この塩基性たんぱく質は主に腫瘍に関連した遊離DNAと結合していると考えられ、現在、次世代シークエンサーを用いた詳細な配列解析の準備を行っています。

今後の展望

本技術によるがん診断法は、簡便、迅速であり、かつ低コストで実施することが可能です。今後、多くのデータを蓄積して精度を確認したうえで、なるべく早くがん診療に実用化することで社会に貢献できると考えています。

本技術は、金属チップ表面に種々の特性を持たせることにより、目的の物質のみを選択的に検出することも可能ですし、網羅的検出も可能です。また、抗体を用いた検出法とは異なり、未知の物質の探索的な検出も可能です。そのため、がん以外の多くの疾病においても、原因・関連物質を短時間で同定、定量することが可能となり、それらの技術応用は、創薬研究やヒト人工多能性幹細胞の細胞選抜等の基盤技術となると期待できます。

用語解説

1)表面増強ラマン散乱(SERS)

表面増強ラマン散乱(SERS)とは、ナノメートルオーダーの微小金属構造体に光を照射することで発生する、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance: SPR)と呼ばれる、光によって誘導される電子の集団振動を利用したラマン散乱です。SERSによる散乱は、通常のラマン散乱分光法と比較して一般に高強度であり、条件を整えれば、金属ナノ粒子凝集体に吸着した一分子からのラマン散乱光を検出できるほど超高感度の測定が可能です。
そのため、SERS測定は、単一分子分光など分子挙動の研究のような基礎的研究から、超微量分析、高感度検出アレイなどといった応用研究まで幅広い分野で活用できると期待されています。

2)量子結晶

世界で初めて開発に成功した新たな概念の「新規プラズモン物質」量子ドットを、3次元に自己組織化する結晶です。

発表(雑誌・学会)

雑誌名 : Nanomedicine: Nanotechnology, Biology and Medicine
論文タイトル : Use of surface-enhanced Raman scattering for detection of cancer-related serum-constituents in gastrointestinal cancer patients (in press)

実際に測定に用いたバイオチップ


測定前のバイオチップの表面構造(電子顕微鏡画像)


実際に測定した臨床サンプルでのラマン散乱強度と波形パターン


測定に用いたラマン顕微測定装置

本件に関する問い合わせ先

昭和大学 横浜市北部病院 消化器センター
講師  伊藤 寛晃
TEL : 045-949-7000
FAX : 045-949-7117
E-mail : h.ito@med.showa-u.ac.jp

ページ先頭へ戻る

「トピックス一覧(2013年度)」に戻る

    • 血液1滴から7分でがんを診断する新技術を開発
ページ先頭へ
Copyright(C) 学校法人 昭和大学 All Rights Reserved.
〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8
電話番号(大代表):03-3784-8000