ホーム > トピックス一覧(2015年度) > [スペシャル対談] 理事長 小口勝司 × 理事・思想家 内田樹(最終回)【全6回】

[スペシャル対談] 理事長 小口勝司 × 理事・思想家 内田樹(最終回)【全6回】

2015年12月22日

昭和大学が企画した特別番組『夢の力』の放送を記念して、本法人の小口勝司理事長と思想家の内田樹理事の対談が実現。この模様は2015年2月28日の毎日新聞に掲載されました。

小口理事長と内田理事の出会いは高校1年生のとき。その後は別々の道を歩みながらも「教育者」という共通点をもつ2人が「昭和大学で何を学ぶべきか、社会に貢献できる医療人とはどういう人か」などについて熱く語り合いました。

今回は紙面の都合でカットせざるを得なかった内容を含めて、全6回にわたってご紹介してきましたが、今回が最終回になります。

小口勝司 小口 勝司
おぐち・かつじ/1950年生まれ。
昭和大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了、
医学博士。79年米国カンザス大学留学、82年英国
ケンブリッジ大学留学、87年昭和大学医学部助教授、
88年同医学部教授、96年同学生部長、2000年
学校法人昭和大学理事、01年同理事長。
平成27年春の褒章にて藍綬褒章を受章。
内田樹 内田 樹
うちだ・たつる/1950年生まれ。
東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院
修士課程修了。90年神戸女学院大学助教授、96年
同大教授。2011年同大名誉教授、学校法人昭和
大学理事。専門はフランス現代思想、映画記号論、
武道論。「日本辺境論」で新書大賞2010を受賞。
「街場の大学論」など著書多数。

高校生のころ内田先生に「平凡な人生がいちばんいいんだ」って言われてびっくりしたんだ(小口)

── では最後に、これからの未来を担う若い人たちに対するメッセージを、それぞれお二人からお願いします。

小口 うーん、メッセージね。どうなんでしょう。個人的にいつも私は卒業する人たちに、「君たち、いい人生を送ってくれよ」って、「納得いく人生を送ってくれ」って言葉を贈ります。この学校にいる人たちがいい医療人になってほしいということもあるけれども、縁があって昭和大学にいた人たちはいい人生を送ってくれるといいなと思っています。
昔ね、高校生のころに内田先生が、「平凡な人生がいちばんいいんだ」って言って、僕は驚いたことを覚えています。まさか内田君がそんなことを言うなんてね。

内田 言った?

小口 言ったの、この人が。

内田 覚えてない。どの口で言ったのか。

小口 まさかそんなことを言うとは思わなかったのに、そう言われて僕はびっくりしたんですよ。だから覚えてるの。。

内田 俺でも驚くよ(笑)。

小口 だけど確かにね、波瀾万丈があってもいいかもしれないけれども、自分の納得のいく人生というのができればいいなと僕は思うね。だから、卒業生に対して納得いくような人生を送り、自分で将来、納得いく医療人になってほしいと僕は思うのね。さっきも言ったけど、無理やりなにかをして偉くなったなということではなくて、自分が目指したものをずっと忘れずに追求して、志を長く保っていればいい人生になるかなというふうには思うんですけどね。

内田 うーん、そうか。なにを考えて言ったのかな。でも、今は僕もそう思うけどね。

小口 そう思うでしょう。

内田 今はね。65歳になると(笑)。

小口 そうそうそう、年を取るとそう思うんだけど、あの当時……

内田 16歳の時にそう言ってたの?。

小口 うん。歯をむいて噛み付きそうなあなたがそんなことを言ったから、この人にもそういう面があるんだって、びっくりした。

内田 そうですか。

小口 でも、僕はそのときは「あっ、そうだな」と思ったよ。そういう割にはね、「勉強はなんのためにするの?」って聞くと、「大学受験のためにやるんだ」みたいなことを言っていたから、なんか違うことを平気で言える人だなと思ったね。

内田 いろいろと分裂してたんだよ(笑)。苦しみの多い青春だったんだよ。

小口 (笑)まあね。でも、楽しかったね。

「こんなの常識」って言えるってことが、すごく大事だと思う。(内田)

内田 別に医療人に限らず…まあ、医療人って、さっき言ったとおり、職業的な熟練自体が人間的な成熟を要求するという希有な職業で、大人にならないといい医者になれない。だから、若い人に言わなければいけないのは、「大人になれよ」ということに尽くされますね。
それは別の言い方をすると、「常識人になって」ほしいということです。できあいのルールや規則でことの適否を判定できないことって、世の中でいっぱいあるわけです。でも、マニュアルにもガイドラインにも書いてない事態に遭遇しても、「どうしたらいいでしょう?」って聞かれたら、「これ」って瞬時にわかる人がいる。「なんで?」って訊くと、「そんなの『常識』じゃないか」って答える。
そういうふうに「そんなの常識」でいける人って、それまでの経験から導かれた一般法則とか、生活規範とか、人間についての経験知が深く内面化している人のことなんだと思う。だから、身体の中から、ふっと「そんなの常識じゃないか」って言葉が出てくる。「そんなことどっかに書いてありますか?」って訊かれても、どこにもないけど、「こんなの常識」って言えるってことが、すごく大事だと思う。
この世のいろんなトラブルのほとんどは、「いや、常識的に判断して、こうでしょう」で済むんです。人間関係のトラブルで、弁護士立てて裁判にしないと片がつかないような話は実際にはごく少なくて、ほとんどは「そんなの常識的に判断すれば、こうでしょ」で済むんです。

小口  そのとおりですね。でも、あなたの常識はわたしの非常識とかいうのはないの?

内田 あるよ。

小口 そうだよね。

内田 常識って強制力がないんだよ。

小口 ないでしょう。 

内田 だって、「そんなの常識じゃないか」っていう発言の重みを担保しているのは、結局、その人が体現している経験知の厚みだけなんだから。だから、その人が「こんなの常識」と言ったときのインパクトは人によって違う。どこかで読みかじった知識や、人に言われた定型句を鵜呑みにして「こんなの常識じゃないか」と言っても、そんな言葉では誰も動かされない。でも、人類史的体験の集積から滴り落ちてくるような「常識」は一言聞いただけで、みんながシーンと黙りこんで、「そうか、そうだよね」と頷いてもらえる。例えば、天変地異の後に、みんながパニックになってどうしていいかわからないときに、「とりあえず死体を片付けて弔いをしよう」と言い出す人がいたとする。「どうして?」と訊かれたら、「そんなの常識だろ」と答える。そういうような集団的な知恵を深く身体化した「常識人」になってもらいたいですね。

小口  そうだね。さっき言った常識というのを、知性と教養だと言っただけだと思うよ。。

内田 まさにそう思います。。

小口 だから、幅広い人を知りなさい。いろんな考えがあることを知りなさい。もしかしたら日本の常識はイギリスの非常識かもしれないし、逆もまた真なりであるから、やっぱり幅広くものを知っておかなければ、ものを見ておかなければいけない。大きく目を見開いていろんなものを見ないといけないなっていう気はするんです。

内田 その人の人間としての格って、その人が「そんなの常識だろ」って言ったときの、なにをもって常識としているかで判定されるんじゃないかな。「君にとってはそれが常識なのね」で、なるほど「この程度のやつ」かってわかる。

小口 そうだね。

なにをもって常識とするかというのは、人間にとって実は命がけの決断なんだよ。(内田)

内田 だから、なにをもって常識とするかというのは、人間にとって実は命がけの決断なんだよ。そういう点でも、ぜひ重い常識を語れる人になっていただきたい。

小口  そうだね。常識は難しいね。お葬式でお焼香をするのだって各地で違うよね。なにが常識かって、その人たちにとっては、その地方が常識なんだよね。神社で手を叩くのが何回っていうのも違うよね。

内田 それが不思議なもので、「それは違うぞ! こうやってやるのが正しい」と言われたときに、「何言ってやがる」と思う場合と、「なるほどそうか」と思う場合があるんだよ。言葉は同じなんだよ。でも、「こう決まっているんだから、こうしろ」と言われて、納得できる人と納得できない人がいる。その違いはどこからくるのかずっと考えているんだけど結局、その場合なら、その人の身体の中に深く内面化している宗教性のリアリティからにじみ出す言葉って、重たいんだよ。

小口 そうだね。でも、本当に知っている人だったら、あの地方ではこうやる、この地方ではこうやるということを知っているはずだよね。それでも言われたときに、それも受け入れて「そうでございますね」って言えれば大したものだなと思う。

内田 言う人のほうも、「地方ごとにいろいろな決まり事があることは存じておりますけれども、ここではこうやるのが決まりなので、ここはひとつ『郷に入らば郷に従え』ということで、呑み込んでください」というメッセージも含めて、「こうする決まりです」と言っているなら、聴いてる方も「ああ、この人は全部わかった上でこう言っているな」ってわかる。それが常識人だと思うんだよね。

小口 それでも「このときはこういうふうにするもんだ」とかさ、「こうじゃなきゃできない」みたいなことを言う人もなかにはいるよ。

内田 それは常識とは言わないんだよね。彼らにとっての常識だけど、それはまさに「他の人から見たら非常識」なんだ。いかに自分だけにしか通じない非常識を減らして、汎用性の高い常識のエリアを増やしていくのか。外国の人と話していても、「でも、それって常識じゃないですか」って言えば通じるようなのがほんとうの「常識人」じゃないかな。

小口 それはそうだね。日本だけでもそれだけ違うんだから、世界の常識からしたら非常識なことがいくらでもあるはずだね。だから、それをちゃんとわきまえて、なおかつ反発もなく、きちんと受け入れられるような。 

内田 それは人間というものについての経験知の深さだと思うね。どれくらいよく人間を知っているかっていうことになると思う。

18歳の子が聞いてわかるようだったら薄っぺらいね、僕たちも(笑)。(小口)

小口 わたしたちは幅広くなりましたかね。

内田 まあ、ずいぶん僕たちはバカなこともやりましたからね。失敗から学習しましたからね。

小口 それはそうですね(笑)。やっぱり経験しなきゃいけないんだろうね。だけど、じゃあ、こうなりなさいと学生さんに言ったところで、すぐにはなれないけどね。それを教えることは……

内田 きょうの話しはわかりにくい話でしたね。でも、それでいいの。わかりにくい話しの方が、喉の刺さった魚の小骨のような話の方が残るから。これを読んで、「なに言ってるんだこの二人は、ぜんぜんわからねえよ」と思って、イライラしているというのがいいんですよ。そういう「気持ちが片付かない」感じって、消えないから。そうしているうちにある日「わかった!」ってなる。「ああ、あの二人は『こういうこと』が言いたかったのか」って。だって、18歳の子が読んでスラスラスラっと全部わかるような話をしてもしようがないじゃない。

小口 そうだね。18歳の子が聞いてわかるようだったら薄っぺらいね、僕たちも(笑)。 

内田 最後まで読んだけど、なにを言っているのか全然わかりませんでしたくらいじゃないと65年生きて来た甲斐がないじゃないですか(笑)。

小口 そうだよね。そんな簡単な結論があったらおかしいよ。

内田 僕らはお互いの言い分にうなずきながら「そうだ、そうだ」と言っているけれども、若い人は「なに身内で盛り上がってるんだよ!」って反発が出るくらいのリアクションがほしいよね。言葉は日本語で意味はわかるはずなんだけど、なにを言っているのかわからないっていう、そのあたりがいい按配なんじゃない。

小口 僕もそう思うね。そう意味から言ったら、本当に美しい人生を歩めよなって。間違った人生にするんじゃないと。僕らは失敗が多かったからね。

内田 そうだね、それが僕らから若い人に告げる言葉でしょうかね。

── 今日は貴重なおはなし、ありがとうございました。
 (おわり)

※写真提供:毎日新聞・山田茂雄氏

ページ先頭へ戻る

「トピックス一覧(2015年度)」に戻る

    • [スペシャル対談] 理事長 小口勝司 × 理事・思想家 内田樹(最終回)【全6回】
ページ先頭へ
Copyright(C) 学校法人 昭和大学 All Rights Reserved.
〒142-8555 東京都品川区旗の台1-5-8
電話番号(大代表):03-3784-8000