歯学研究科概要

研究科長あいさつ

大学院 歯学研究科長 高見 正道大学院 歯学研究科長 高見 正道

- 歯科医学研究の水先案内人として -

超高齢社会に突入したわが国では、国民の健康長寿を支えるために歯の保存や口腔機能の維持が重要であることが認識され、歯科医療への期待が高まっています。このような社会の変化とニーズに応えるための歯科医療研究ならびに優秀な人材育成こそ、私たち歯学研究科の責務です。

歯学研究科では、口腔と全身疾患との関わり、口腔疾患予防、デジタル歯科技術など、口腔機能の育成・維持・回復のための基礎・臨床研究の成果を医療現場に還元することで国民の健康に貢献しています。また、本学のもつ広域かつ先鋭な研究力を背景に、新しいステージの歯科医療の創生(デンタルイノベーション)を目指しています。

大学院教育においては、 きめ細やかなサポートにより国際的に活躍できるリーダーの養成に力を入れています。その特色として、社会人受入制度により臨床研修と大学院の研究が同時進行可能なことや、海外邦人医療基金(JOMF)との共同で大学院生を歯科医師として定期的に海外診療に派遣していることなどが挙げられます。

このように歯学研究科は、歯科医学研究の水先案内人として、わが国の歯科医療の発展を牽引します。

研究テーマ

無機ポリリン酸はマクロファージ動員の調節を介してリポ多糖誘発性致死性および組織損傷を予防する
口腔歯肉上皮細胞による接合上皮細胞の置換の可視化
セリア安定型ジルコニア/アルミナ・ナノ複合体の正面粗さはヒト歯肉繊維芽細胞の形態と機能を抑制する
振動刺激によるオクルーザルスプリントを用いた睡眠時ブラキシズムの抑制
プッシュバック口蓋形成術を行った片側性唇顎口蓋裂患者の最終顎顔面咬合形態
口腔内スキャナーとCBCTを使った歯根を含めた歯の三次元的移動様態解析
三叉神経運動ニューロンへの固有感覚入力のセロトニン1B受容体を介したシナプス前抑制
食物アレルギーは口腔ディスバイオーシスを誘導し、腸管内で1L-33を介した症状の憎悪を引き起こす

研究生・教員メッセージ

周 君さん 歯学研究科
歯科で使用される接着剤の劣化の可能性をナノレベルで研究。

周 君さん 歯学研究科 修了生 歯科理工学

現在、歯科治療で被せ物等をする場合、一般的な接着剤として10 -MDP含有のプライマーが使われますが、私はこの10 - MDPの治療後の劣化の可能性について研究しました。重要になるのは、ハイブリット層と呼ばれる接着界面の力学的特性の評価です。そこで指導担当の柴田先生と相談し、ナノ圧痕技術を用いて、このハイブリット層の質的評価とともに、機械的特性を量的に評価する研究に取り組みました。ナノ圧痕技術を評価基準に用いるのは初の試みであり、革新的な取り組みともいえます。実験過程では、たくさんのインスピレーション得ることができ、実験方法だけでなく、研究に対する考え方など、自分の将来を広げてくれる経験になりました。論文では上條賞をいただき、大学院も3年半で早期修了することができました。
私は天津医科大学から研修生として来ましたが、ここの研究室の雰囲気はとてもよく、みんな熱心に研究に取り組んでいます。将来は日本の歯科医師ライセンスを取得して日本の病院でも活躍したいと思っています。

中井 健人さん 歯学研究科
iPS細胞を用い、睡眠時ブラキシズムの発症メカニズム解明に挑む。

中井 健人さん 歯学研究科 3年次 歯科補綴学

睡眠時ブラキシズム(睡眠時の歯ぎしり)は、義歯や被せ物の破損のみならず、歯そのものの破折を引き起こすことさえあります。しかしその原因は未だに明らかにされていません。患者さんのQOLや補綴治療の予後に関与する重要な要因といえる「睡眠時ブラキシズム」は歯科補綴学講座の主要研究テーマの1つです。先行研究によると「睡眠時ブラキシズムの発症には神経活動に関わる、ある遺伝子が影響している」と言われています。
そこで私たちは近年、再生医療や疾患研究で多くの注目を集めているiPS細胞の技術を応用し、睡眠時ブラキシズム患者さんの遺伝情報を反映した神経細胞を作製して実験を行っています。本学の口腔病理学講座や口腔生理学講座、また学外施設では慶應大学や順天堂大学といったiPS研究の最前線といえる研究室と連携し、日々研究に取り組んでいます。臨床との両立はとても大変ですが、日々の患者さんとの関わりが研究の情熱に繋がっています。

口腔病理学 美島 健二教授


唾液腺の再生医療を研究テーマに、
多くの失敗から成功を導き出せる、タフなサイエンティストの育成を。

口腔病理学 美島 健二教授

日本には口腔乾燥症の方が潜在的に800万人以上いると言われ、高齢者の方の基礎疾患に対する薬剤の副作用や、進行性の頭頸部ガンに対する放射線治療、免疫機能に由来するシェーングレン症候群などが発症要因となっています。当教室は、口腔乾燥症の治療における唾液腺の再生医療をメインテーマに、ES細胞を用いた唾液腺の細胞生成を研究しています。教室での指導は、主に論文作成におけるテーマ決定から技術的指導、実験遂行計画の立案、さらに軌道修正なども面通しで行なっています。サイエンスはタフさが求められる世界ですが、そもそも研究は数多くの失敗を伴うものであり、また失敗がなければ自信を持って世界に発信できる成果にはなり得ません。自分のやりたいテーマを見つけ、楽しさとやる気を持続できることが大切です。
院での経験を通じて、卒業時には独り立ちした研究者としてのスタートラインに立って欲しいと願っています。


研究科の特徴・理念

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歯学研究科アドミッション・ポリシー(入学者の受入方針)
1.高い倫理観と使命感を備え、歯学・歯科医療分野で活躍し、社会に貢献する意思を持つ人
歯科医学は、あらゆる世代の口顎領域に生ずる病気や障害を予防・根絶ないし除去し、人々の健康の維持・増進に寄与する健康科学の一分野です。歯科医師は、常に病人を思いやる心を持っていることが大切です。自分を律しながら患者さんの人権を尊重し、医療に携わる人々と協調し、患者さんのための歯学・医療に対する使命感と倫理観を持った人を求めます。

2.知的好奇心に富み、科学的探究心・創造力を発揮できる人
歯学研究とは、自然科学のほか幅広い学問が必要とされます。このため、理系の学力を重視しますが、文系の科目に関しても基礎的な知識を持った人を求めます。

3.高度な知識・技術を獲得し、さらに応用・発展をめざす人
大学院を設置する医系総合大学の歯学部としての特性を生かし、健康科学に貢献できる創造力を備えた歯科医療人の育成と口腔科学研究者になり得る人材の育成を目的としています。

4.国際的な視野を持ち、社会や科学の問題にあたる意欲を持つ人
今日、歯学研究は、国際的な連携のもとで実施されることが益々多くなっています。したがって歯学研究科は国内ではもちろんのこと、国際的にも口腔科学研究の一大拠点として、競争的環境の中で個性を重んじる研究活動、教育活動、診療活動、ならびにそれぞれにおける社会貢献を展開することを基本理念として掲げています。このため国際的な視野で物事を考え行動できる人を求めます。
歯学研究科カリキュラム・ポリシー(教育課程の編成方針)
  1. 生命科学の基盤の上に、歯学並びに関連諸分野に関する深い洞察力と専門的知識の習得に加えて、課題探求能力を備えた研究者並びに高度な知識と技術を有する専門職業人養成のための教育を行う。
  2. 歯学研究科の教育は、講義、演習、実習および学位論文の作成等に対する指導により行う。
  3. 関心ある科目を幅広く学習し、主科目以外の学問領域への関心を拡げ学際的視点を養えるよう、「口腔科学特論」ならびに「臨床特論」を開講する。
  4. 自立して研究を行うために必要な研究手法および研究遂行能力を身につけるための実践的教育を「研究入門」により行う。
  5. 国際的に活躍できる自立した研究者を養成するための英語教育を行う。
  6. 国内外の学会・研究会等に参加し、幅広い視野を確立し成果を発信する能力を養う。
歯学研究科ディプロマ・ポリシー(修了認定・学位授与に関する方針) -
「至誠一貫」の精神のもと、より高度な歯学研究や歯科医療に邁進し、国民の健康増進と福祉に寄与する優れた人材育成のためのカリキュラム(教育課程)を策定している。修了までの達成目標を以下に列挙する。

  1. 医療・健康・生命科学の中において歯学に関する深い学識と専門性、高度な思考・判断能力を有する。
  2. 多様な学術的連携・協調をもち、歯・口腔領域の研究を先端的・独創的に推進する能力を有する。
  3. 円滑なコミュニケーションのもと、国際的視野に立ち、成果を社会へ情報発信できる。
  4. 生涯にわたり研鑚をし、社会との架け橋となる自覚を有する。
  5. 研究者として強い責任感と高い倫理観をもち、歯学・生命科学の発展に寄与する。