薬学研究科の中野僚太さんが日本薬学会第143年会で学生優秀発表賞を受賞
受賞・表彰#薬学研究科
この研究成果はClinical Case Reports誌に掲載されました(Nakano R et al. 2022 Apr 21;10(4):e05718)。
〈論文情報〉
・タイトル: Irinotecan-induced severe hypotension in a patient with lung cancer
・掲載紙: Clinical Case Reports
・著者: Ryota Nakano, Kenji Momo, Airi Matsuzaki, Akiko Sakai, Takeshi Uchikura, Katsumi Tanaka, Satoshi Numazawa, Tadanori Sasaki
・DOI: 10.1002/ccr3.5718.
・URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ccr3.5718
中野僚太さんのコメント
この度、日本薬学会第143年会において学生優秀発表賞(ポスター発表の部)を受賞させていただきました。
がん化学療法により惹起される血圧低下の多くはアレルギー性の機序で起こり、非アレルギー性の血圧低下は稀です。本発表では小細胞肺がんに対して使用されたイリノテカンと制吐目的で使用されたステロイドの併用により非アレルギー性の重度血圧低下が認められた症例を報告しました。
イリノテカンは有害事象として、心拍数と動脈圧を低下させること、コリンエステラーゼの阻害や迷走神経への作用を通じて、副交感神経を優位にする事が報告されています。また、制吐剤として使用されたステロイドには、使用中止時に副腎不全の有害事象が報告されております。本症例の血圧低下発生機序として、イリノテカンの副交感神経亢進作用とステロイド使用中止による副腎機能低下の相加相乗作用が考えられました。本症例報告は心毒性作用のある抗がん剤とステロイドの併用療法により、非アレルギー性の機序で想定以上の低血圧を呈する危険性明らかにしました。
本症例報告の作成と学会発表にあたり、ご指導ご鞭撻を賜りました百賢二准教授(薬学部病院薬剤学講座)、病院薬剤学講座の先生方、いずみ記念病院薬局の先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。
がん化学療法により惹起される血圧低下の多くはアレルギー性の機序で起こり、非アレルギー性の血圧低下は稀です。本発表では小細胞肺がんに対して使用されたイリノテカンと制吐目的で使用されたステロイドの併用により非アレルギー性の重度血圧低下が認められた症例を報告しました。
イリノテカンは有害事象として、心拍数と動脈圧を低下させること、コリンエステラーゼの阻害や迷走神経への作用を通じて、副交感神経を優位にする事が報告されています。また、制吐剤として使用されたステロイドには、使用中止時に副腎不全の有害事象が報告されております。本症例の血圧低下発生機序として、イリノテカンの副交感神経亢進作用とステロイド使用中止による副腎機能低下の相加相乗作用が考えられました。本症例報告は心毒性作用のある抗がん剤とステロイドの併用療法により、非アレルギー性の機序で想定以上の低血圧を呈する危険性明らかにしました。
本症例報告の作成と学会発表にあたり、ご指導ご鞭撻を賜りました百賢二准教授(薬学部病院薬剤学講座)、病院薬剤学講座の先生方、いずみ記念病院薬局の先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。

研究内容の詳細はこちら
【背景】
がん化学療法は、酸化ストレスや心筋炎などにより、不整脈、血栓症、高血圧、低血圧などの心血管系毒性を誘発することが知られている。その中でも低血圧はアレルギー性の機序によって引き起こされる場合が散見されるが、非アレルギー性の低血圧はまれである。今回、イリノテカンをベースとした化学療法と副作用予防のための支持療法を行った後に、重度の非アレルギー性の低血圧が数日間出現した症例を経験したため報告する。
【症例】
71歳男性、ステージIVの小細胞肺癌(sT1cN3M0)と診断され、2020年9月にIP(イリノテカン+シスプラチン)療法施行のため、いずみ記念病院に入院した。患者は既往で高血圧を有し、平常時の血圧は120–140/80–90 mmHgであったが、各クールの化学療法後に重篤な低血圧を呈し、それは次回の抗がん剤投与時まで遷延した。血圧は一時83/59 mmHgまで低下したが、低血圧出現後、抗がん剤の減量、輸液負荷、降圧薬の中止、下肢挙上などの処置により、全4コースの化学療法は計画通りに実施された。
【考察】
本症例の低血圧はイリノテカンとステロイドに起因する可能性が考えられた。具体的には、イリノテカンには有害事象として、1)心拍数と動脈圧を低下させること、2)コリンエステラーゼの阻害や迷走神経への影響を通じて、副交感神経系の反応を亢進する事が報告されている。また、抗がん剤の副作用対策として使用されたステロイドには、副腎不全の有害事象が報告されている。本症例の低血圧は通常のイリノテカンによって生じるものに比べ遷延した。これはステロイドによる副腎機能低下との相加相乗作用による可能性が考えられた。心毒性作用のある抗がん剤とステロイドの併用療法は非アレルギー性の機序で想定以上の低血圧を呈する場合があるため、注意が必要である。
がん化学療法は、酸化ストレスや心筋炎などにより、不整脈、血栓症、高血圧、低血圧などの心血管系毒性を誘発することが知られている。その中でも低血圧はアレルギー性の機序によって引き起こされる場合が散見されるが、非アレルギー性の低血圧はまれである。今回、イリノテカンをベースとした化学療法と副作用予防のための支持療法を行った後に、重度の非アレルギー性の低血圧が数日間出現した症例を経験したため報告する。
【症例】
71歳男性、ステージIVの小細胞肺癌(sT1cN3M0)と診断され、2020年9月にIP(イリノテカン+シスプラチン)療法施行のため、いずみ記念病院に入院した。患者は既往で高血圧を有し、平常時の血圧は120–140/80–90 mmHgであったが、各クールの化学療法後に重篤な低血圧を呈し、それは次回の抗がん剤投与時まで遷延した。血圧は一時83/59 mmHgまで低下したが、低血圧出現後、抗がん剤の減量、輸液負荷、降圧薬の中止、下肢挙上などの処置により、全4コースの化学療法は計画通りに実施された。
【考察】
本症例の低血圧はイリノテカンとステロイドに起因する可能性が考えられた。具体的には、イリノテカンには有害事象として、1)心拍数と動脈圧を低下させること、2)コリンエステラーゼの阻害や迷走神経への影響を通じて、副交感神経系の反応を亢進する事が報告されている。また、抗がん剤の副作用対策として使用されたステロイドには、副腎不全の有害事象が報告されている。本症例の低血圧は通常のイリノテカンによって生じるものに比べ遷延した。これはステロイドによる副腎機能低下との相加相乗作用による可能性が考えられた。心毒性作用のある抗がん剤とステロイドの併用療法は非アレルギー性の機序で想定以上の低血圧を呈する場合があるため、注意が必要である。
関連リンク
日本薬学会第143年会:学生優秀発表賞
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