塚崎雅之兼任講師らの研究成果が『Nature』に掲載

講演・発表

歯学部口腔生化学講座の塚崎雅之兼任講師(東京大学大学院医学系研究科 骨免疫学寄付講座 特任准教授)らの研究グループは、口腔がんの顎骨への近接に対し骨膜の細胞がプロテアーゼ阻害因子 Timp1を産生することでコラーゲンの防御壁を形成し、物理的に腫瘍の骨への浸潤を阻害することを見出し、非免疫系の細胞による全く新しい抗がん機構とその重要性を世界で初めて明らかにしました。この研究成果は今後、がんの進行を抑える新しい治療戦略の開発につながることが期待されます。本成果は、2024年8 月21日に英国科学誌『Nature』に掲載されました。
 
<論文情報>
雑誌名:Nature
題 名:The periosteum provides a stromal defence against cancer invasion into the bone
著者名: Kazutaka Nakamura, Masayuki Tsukasaki*(共同責任著者), Takaaki Tsunematsu, Minglu Yan, Yutaro Ando, Nam Cong-Nhat Huynh, Kyoko Hashimoto, Qiao Gou, Ryunosuke Muro, Ayumi Itabashi, Takahiro Iguchi, Kazuo Okamoto, Takashi Nakamura, Kenta Nakano, Tadashi Okamura, Tomoya Ueno, Kosei Ito, Naozumi Ishimaru, Kazuto Hoshi and Hiroshi Takayanagi*(共同責任著者)
DOI: 10.1038/s41586-024-07822-1
URL: www.nature.com/articles/s41586-024-07822-1

塚崎雅之兼任講師のコメント

口腔は、粘膜の直下に骨が存在するユニークな臓器です。口腔がんは粘膜で発生し、顎骨の周りを包む「骨膜」を乗り越えダイレクトに骨へと侵入することで患者の生命予後と QOLを顕著に増悪します。医学領域で数多くの研究が為されてきた乳がんや前立腺がんの「骨転移」では、がん細胞が血流を介して骨内部に侵入するため、がんと骨膜の関係はこれまで全く注目されてきませんでした。
今回、私が歯科医師として口腔がんに興味を持っていたことと、骨膜の研究をしていたこと(Tsukasaki et al., Nature Com 2022)が結びつき、口腔がん病態における骨膜の機能に注目した結果、骨膜が腫瘍の近接を認識して積極的に防御壁を作って身体を守ることを発見し、非免疫系による全く新しい抗がん機構とそのメカニズムを見出すことができました。
免疫系による抗がん効果の研究は免疫チェックポイント阻害薬をもたらし、2018年にはノーベル医学生理学賞の対象にもなりましたが、非免疫系による抗がん効果の研究は幕を開けたばかりの未踏領域です。今後は本研究のコンセプトをさらに発展させていくと同時に、口腔のユニークさに立脚した歯科医師ならではの観点から生命科学のフロンティアを切り拓くような、特殊から普遍へ突き抜けるサイエンスを展開していきたいと思っています。

サムネ塚崎雅之 兼任講師