頚動脈ステント留置術(CAS) 

頸動脈ステント留置術:カテーテル治療

頸動脈ステント留置術は、カテーテルによる治療です。頚動脈狭窄症に対する治療は、手術、薬による治療などがありますが、近年、カテーテル治療が行われるようになってきました。治療件数も徐々に増加してきております、新しい治療器具や新しいテクニックが年々登場してきており、進歩がめざましい分野であります。また、以前は頚動脈内膜剥離術の高リスクの方がこの治療の対象となっていましたが、最近通常のリスクの方に対しても手術と同等の成績が証明され、徐々に増加傾向にあります。


頸動脈ステント留置術の治療方法

脚の付け根の血管からカテーテルを挿入し、首の血管まで進めていきます。そして、バルーンカテーテルと呼ばれる風船状の器具にて細くなった血管を広げます。その後、ステントと呼ばれる金属の網状の筒のような治療器具にて血管を広げます。さらにもう一度、バルーンにて血管を拡張させます。治療の際に、動脈硬化の破片が脳へ流れていくことがあり、その場合、脳梗塞に陥ることがあります。それを予防するべく、プロテクションという手技を用います。プロテクションとは、バルーンにて一時的に血流を遮断し動脈硬化の破片が脳へ流れて行かないようにしたり、フィルターと呼ばれる網状のもので流れていく動脈硬化の破片をキャッチします。治療は、痛みもほとんど無いため、大半は局所麻酔にて行います。
 当院では、Philips社製の高性能のアンギオ装置にて治療を行います。(
2022年4月現在)



血管造影01血管造影:治療前 頚動脈が著しく狭くなっている。

血管造影02血管造影:ステント治療後 内頚動脈の細くなっていた部分が拡張している。

頸動脈ステント留置術の長所と短所

この治療の長所は、手術とは異なり“切らずに治療が出来る”ことで、首の皮膚を切る必要がありません。そのため、手術後に傷が残ったり、そこが化膿したり出血するといったことはありません。加えて、抗血小板薬(脳梗塞の予防薬)を手術前に中止する必要もありません。また、局所麻酔でも行えるため、心臓病や呼吸器疾患、高齢などにより全身麻酔が困難な方に対しても治療できます。
この治療にも欠点があります。治療を行った際に、動脈硬化病変が脳に流れるなどして脳の血管が詰まってしまい脳梗塞をきたすことがあります。その危険性は手術より高いとされています。この予防のために、先に述べたプロテクションや血を固まりにくくする薬(抗血小板薬)などを使用します。

治療成績

治療により合併症をきたすことがあります。

一般的に、日本全国で2010年~2014 年で施行された頸動脈ステント留置術の成績が2019年に報告されています。成功率99.5%、深刻な合併症は 2.3%(死亡率0.2%)と良好な成績を納められるようになってきています1) 。しかし、一般的にはリスクがつきものであるという治療であるということを忘れてはならず、治療を行うかどうか慎重に検討しなければいけません。


手術とカテーテル治療、どちらが良いのか?

手術、カテーテル治療とも一長一短で、それぞれ得手不得手がありますが、基本的に、頸動脈ステント留置術が対象となるのは手術(CEA)が困難な方です。狭窄性病変の位置や性状、年齢、他に患っておられる病気などを熟慮し、治療方針を検討することが重要です。最近手術のリスクが高くない方に対しても手術と同等の成績が証明され、徐々に頚動脈ステント症例も増えつつあります2)
 このように、手術とカテーテル治療のどちらが良いか決定するには、様々な要素が関与していますので、患者さんごとに熟考することが必要で、それぞれのエキスパートが相談できる環境が望ましいと考えています。

  

 

 

文献による補足説明

1: Tokuda R, Yoshimura S, Chida K, et al: Real-world Experience of Carotid Artery Stenting in Japan: Analysis of 8458 Cases from the JR-NET3 Nationwide Retrospective Multi-center Registries. Neurol Med Chir(Tokyo) 59(4).117-125, 2019

2: Halliday A, Bulbulia R, Bonati L, et al: Second asymptomatic carotid surgery trial (ACST-2): a randomised comparison of carotid artery stenting versus carotid endarterectomy. Lancet 398(10305): 1065-1073, 2021.