脳神経血管内治療センター

昭和大学藤が丘病院内に最新の医療設備と優れた技術を有する医師を集め、脳神経血管内治療センターを開設いたしました。

脳神経血管内治療とは

脳神経血管内治療とは、カテーテルという細いチューブをX線透視下に、脳血管の病変部まで挿入し、その中を通過する様々なデバイス(治療するための機材)を用いて病変部の治療を行う新しい方法です。この方法は約30年前から行われてきましたが、当初はX線撮影装置、カテーテルの開発の遅れから、必ずしも良好な治療成績は得られませんでした。しかし、近年のカテーテルや各種のデバイスの開発、高性能のX線撮影装置の導入に伴い、治療成績は飛躍的に向上しており、疾患によっては、従来の開頭手術成績を上回るようになってきました。ただ、扱う病変が脳内の非常に繊細な部分ですので、治療に当たっては十分な設備と、医師の高い技術レベルが要求されます。

対象疾患

脳神経血管内治療センターで対象とする疾患を以下に示します。

1.脳動脈瘤

マイクロカテーテルという細いチューブを動脈瘤内に挿入し、マイクロコイルという250~350ミクロンのプラチナでできた細いコイルを瘤内に充填し動脈瘤が破裂しないようにします。頚部の広い動脈瘤では、適宜ステント(血管内に挿入する金属の網目状のチューブ)や、バルーンカテーテル(先端に風船 のついたチューブ)を併用し治療します。また、高難度の瘤に対しては、Yステントや、多重ステントによる治療も行なっています。また、難治性の動脈瘤に対してはCFD(動脈瘤内の血流の流れ)解析を行い、治療方針・治療法を決定しています。脳動脈瘤の約90%は血管内治療が可能です。しかし、瘤の発生部位、形によっては開頭術の方が安全な場合があります。そのような場合は、あくまでも安全性を重視し開頭術を勧めております。

2.脳動静脈奇形

脳神経外科領域では最も手術の難しいとされている疾患でしたが、血管内治療で脳動静脈瘤奇形そのものを固めてしまい、容易に摘出することが可能となってきました。従来用いられていたNBCAという接着性の高い塞栓物質以外に、ONYXという接着性のない液体塞栓物質を用いることにより脳動静脈瘤奇形の大部分を固めてしまうことが可能です。10%前後の患者さんでは、塞栓術のみで根治させることも可能です。また、十分な塞栓効果が得られれば、残存部分に対しガンマナイフ治療を追加し、根治させることも可能です。

3.硬膜動静脈シャント

拍動性の耳鳴り、認知症、脳出血などで発症する比較的まれな疾患ですが、脳神経血管内治療を用いないと根治させることが困難な病気です。また、脊椎にできた場合は、排尿障害、感覚障害から麻痺が進んできます。早期に発見して治療しないと回復が悪いことがあります。これらの疾患は、まず血管撮影を行い、動脈と静脈がシャントを形成している部分を同定し、その部分をコイルや液体塞栓物質を用いて閉塞させることにより完治します。まれに手術を併用する場 合がありますが、90%以上はカテーテル治療で根治できます。

4.内頚動脈狭窄症

頚部内頚動脈狭窄部を風船付きのカテーテルとステントを用いることにより血管を拡張させ、脳梗塞の再発を防ぎます。本治療の最も重要なポイントは、 血管拡張時に発生したデブリスを脳血管内に迷入させないことです。可能な限りのプロテクションデバイスを用いて、安全、確実な頚動脈ステント留置術を行っています。頚動脈ステント留置術は99%の患者さんで施行可能です。導入当初は頚動脈血栓内膜剥離術の治療成績に劣っていましたが、最近の米国で行われたCRESTという研究では、血栓内膜剥離術、ステント留置術の間に治療成績の差は認められていません。また、特殊な治療として慢性期内頚動脈閉塞症に対しても、我々が独自に開発した治療法で再開通治療を行っております。

5.椎骨、鎖骨下動脈狭窄症

めまい、上肢の労作時の脱力、血圧の左右差などが特徴です。狭窄部位にステントを留置し、血管を拡張することにより症状が改善します。それほど難しい治療ではなく、安全性も高い治療です。

6.頭蓋内動脈硬化性病変

本疾患に対する治療適応は確立されたものはないのが現状ですが、薬物治療でも脳虚血発作がコントロールできないものや、症候性で狭窄の進行するものに対しては、バルーンカテーテルを用いた血管形成術、ステント留置術などを積極的に行っています。

7.超急性期脳梗塞

脳主幹動脈が閉塞した場合、できるかぎり早く閉塞を解除しないと脳梗塞の範囲が拡大し、重篤な後遺症が残ることになります。近年、超急性期脳主幹動 脈閉塞症に対して閉塞血管を再開通させるための種々なデバイスが開発されてきました。1つはペナンブラシステムという太い血管吸引用のカテーテルです。カテーテルが非常に柔軟になり脳血管までこのカテーテルを挿入し、血栓を吸引除去します。約80%の割合で血管の再開通が得られます。それ以外にステントリトリーバーと呼ばれるもので閉塞している血栓の部分でこのデバイスを拡張させ、デバイス内に入り込んでくる血栓をステントを開いたまま回収する方法です。 この方法を用いることにより80~90%の割合で閉塞血管を再開通させることが可能です。当脳神経血管内治療センターでは24時間、365日体制で、脳神経血管内治療専門医が脳神経センタースタッフとともに治療にあたっています。

8.血管腫

頭頸部、顔面、口腔内にも血管腫(静脈性血管腫、動静脈奇形)が発生します。静脈性血管腫に対してはアルコール注入による硬化療法、血管奇形に関してはNBCAを用いた塞栓術を行います。

9.鼻出血

難治性の鼻出血の中には脳動脈瘤や動静脈奇形が原因となっているものがあり、致死的な大出血を来すことがあります。まず、確実な診断を行い、出血部を血管内治療で確実に止血します。

脳神経血管内治療は、開頭手術に比べて患者さんへの負担は少なく、十分な治療効果をもたらす安全な治療です。ただ、施行に関しては、高性能の設備と高度な技術、脳神経外科手術によるバックアップが必要です。当センターではこれらすべての条件を備えております。
スタッフ一同、神奈川の脳卒中治療に貢献してゆきたいと考えております。