レポート

平成30年度

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第1回(第186回) 4月19日(木) 「漢方の基礎」 内山 心美 先生
テーマ: 「漢方の基礎」
講 師: 内山 心美 先生

 おかげさまで平成12年度から始まった東洋医学研究会も平成30年度で19年目を迎えることができました。これもひとえに、講師の先生方およびご出席いただきました多くの方々のお力によるものと、心よりお礼申し上げます。
今年度も漢方はじめ東洋医学に精通した先生方にご講演をお願いしております。
皆様お誘いあわせの上、ご参加いただけますようお願い申し上げます。
 
 本年度第1回東洋医学研究会は、昭和大学江東豊洲病院産婦人科の内山心美先生にお願いしました。 この研究会は東洋医学を初めて学ぶ人が一年間参加すると、東洋医学の全体像が理解できるようになることを目的にしております。そこで初回ご担当の内山先生からは漢方の基礎についてお話しいただきました。内山先生が漢方医学にご興味をもたれたのは、ご自身が勤務医時代に子育てとの両立の忙しさから体調を崩されたときに、漢方薬の服用により改善された経験がきっかけだったそうです。

 まず、漢方医学は約1500年前に中国や韓国を経由して日本に渡来しており、「漢方」という呼び名は、江戸時代に入ってきたオランダ医学「蘭方」と区別するためにつけられた、というお話から始まりました。中国医学《黄帝内経(こうていだいけい)、神農本草経(しんのうほんぞうきょう)、傷寒論(しょうかんろん)》の歴史や生薬分類、室町時代から現代までの日本における漢方医学の歴史についてご紹介いただきました。次に煎じ薬とエキス製剤といった漢方薬の剤形の違いについて、また医療用漢方と一般用(OTC)漢方についてもご説明いただきました。さらに、漢方の基本理念である「虚実」「寒熱」「六病位」「気血水」について、それぞれの特徴をご紹介いただくとともに、証の見方や処方の考え方について、実際の臨床データをもとに練習問題形式でお教えいただきました。

 最後に漢方の魅力として「未病」という考え方があること、西洋薬との違いにも触れられ、漢方薬といっても副作用があることも忘れないようにというメッセージで締めくくられました。

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第2回(第187回) 5月24日(木) 「漢方の診察法」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方の診察法」
講 師: 石野 尚吾 先生

 平成30年度第2回東洋医学研究会は、昭和大学医学部生理学講座、客員教授の石野尚吾先生にお願いし、漢方の診察法についてお話しいただきました。

 長年にわたる臨床経験から、漢方の診察時に大切な観点や、適した処方などについてご紹介いただきました。西洋医学では、「診察→各種検査→診断(病名の決定)」の後に処方が決定されますが、東洋医学では「四診(ししん)→診断(証の決定)」によって処方が決定されます。これを日本漢方では「方証相対(ほうしょうそうたい)」、中医学では「弁証論治(べんしょうろんち)」と呼んでいます。四診とは、「望診(ぼうしん:視覚によって行う)・聞診(ぶんしん:聴覚、嗅覚によって行う)・問診(もんしん:診断に必要な事項を問う)・切診(せっしん:触診に該当)を指し、特に「切診」においては「脈診」を急性疾患に、「腹診」を慢性疾患に用いるそうです。四診それぞれについてご説明をいただき、全ての情報を総合的に判断することが重要と強調されていました。特に「腹診」については詳しくお話しいただきました。診断時のポイントとして、「リラックスさせること」、「大小便排泄後であること」、「食後は避けること」など患者本来の状態を見極めることが大切であるとお話しされました。実際に現場で診察する機会のある「腹満(ふくまん)」「胸脇苦満(きょうきょうくまん:胸から脇にかけて重苦しく張っている様子)」「心下部振水(しんかぶしんすい)」「心下痞硬(しんかひこう)」「小腹硬満(しょうふくこうまん)」「小腹急結(しょうふくきゅうけつ)」「腹直筋攣急(ふくちょくきんれんきゅう)」「小腹拘急(しょうふくこうきゅう)」「小腹不仁(しょうふくふじん:お腹の上部硬いが下腹部は柔らかい様子)」「蠕動不穏(ぜんどうふおん)」「裏急(りきゅう)」について虚実の実態と選択すべき処方薬をご紹介されました。

さらに、漢方薬使用上の注意点として、食前または食間の服用が基本であること、副作用を起こしやすい生薬に「甘草」「麻黄」「大黄」「附子」「人参」があることを挙げられ、実際の症例についてお話いただきました。

 ご講演の後は、特別に腹診用人体模型をご用意いただき、参加者には実際に「心下痞硬」「胸脇苦満」「小腹不仁」や「実証」「虚症」「中間」の腹部に触れ、実際に触れることで理解を深めることができました。参加者がそれぞれに触診している様子を見て、それでは強すぎる、など患者への触れ方についてもその場でアドバイスをいただきました。

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第3回(第188回) 6月28日(木) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬の知識」 平井 康昭 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬の知識」
講 師: 平井 康昭 先生

 平成30年度第3回東洋医学研究会は、昭和大学富士吉田教育部 医薬資源学 教授の平井康昭先生にお願いしました。

 平井先生は長年、薬用植物の研究に携わられており、生薬原料の薬用植物(自生植物も含む)から成分の単離に至るまで幅広い知識をお持ちです。

 今回は特別に、平井先生自らご用意くださった「人参養栄湯」と「小青竜湯」の構成生薬標本(乾燥・刻み)を一人一人お土産にいただき、個々の生薬に関して効果効能、またどのような一般用(OTC)漢方製剤に含まれているかなど幅広くご紹介いただきました。ご参加いただいた皆さんは、お話を聞きながら生薬のにおいを嗅いだり、味見したりして理解を深めておられました。薬用植物は見た目で惑わされることも多いのですが、江戸時代は今よりも写真等の情報がない分、さらに間違った解釈が多く見受けられたようです。例えば、「遠志(オンジ)」という「イトヒメハギ」由来の生薬がありますが、江戸時代の文献には間違った「ヒメハギ」の絵が描かれていました。

近年では漢方薬を西洋薬のような名称で商品化するメーカーも多く、「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」を「ナイシトール(小林製薬)」「コッコアポEX錠(クラシエ)」という名前で販売しています。また、コッコアポについては「大柴胡湯」を「コッコアポG錠(クラシエ)」、「防已黄耆湯」を「コッコアポL錠(クラシエ)」として販売しており、同じブランド名でも全く異なる漢方薬が使われているそうです。薬局では「漢方薬よりも西洋薬風の名前の方が効きそうな気がする」という会話も聞こえるそうで、医療関係者の正しい知識と情報提供のあり方を考えさせられました。

 講演の後は、「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」、「人参養栄湯」、「小青竜湯」の煎じ薬をご用意いただき、参加者に実際に飲んでいただきました。

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第4回(第189回) 7月4日(水)  「プライマリ・ケアで役立つ東洋医学(漢方・円皮鍼)」 樫尾 明彦 先生
テーマ: 「プライマリ・ケアで役立つ東洋医学(漢方・円皮鍼)」
講 師: 樫尾 明彦 先生

 平成30年度第4回東洋医学研究会は、給田(きゅうでん)ファミリークリニック副院長の樫尾明彦先生にお願いしました。

 樫尾先生は大学院生の時に石野尚吾先生に師事、その後、家庭医療専門医を取得され、プライマリ・ケアの専門家としてご活躍されています。

 プライマリ・ケアの5つの理念として「近接性(声をかけやすい存在)」、「文脈性(原因を探りながら治療できる)」、「包括性(年齢・性別などにとらわれず予防も含めた診療を行う)」、「継続性(一人の人としての繋がり、病気のない健康などから関る)」、「協調性(他科専門医や地域、地域住民との連携)」を挙げられました。特に、文脈性の部分では正しい東洋医学的な考え方を取り入れることでアプローチできるとおっしゃっていました。

 家庭医とは、その地域の患者の「ライフイベント/病」に継続的にかかわりを持つことを挙げられ、乳児の予防接種から児童期の検診、結婚を機に訪れる風疹の予防接種、中高年期の生活習慣病、親の介護、そして終末医療・・・というようにその方の人生に寄り添う医療と捉えていらっしゃいます。

 診療は、救急を要する場合を除き、まず東洋医学的な診察を行ってから西洋医学的な診察を取り入れているそうです。その理由の一つに、西洋医学的な腹診は膝を立て、強めの圧を加えるため、その後の東洋医学的な診断が難しくなるからだそうです。

また、漢方医療の特徴は、診断した瞬間から適応薬の処方が可能であり、命に係わる重篤な副作用がほとんどないため、処方しながら経過観察ができるという利点を挙げられました。その際のポイントは、電解質異常や間質性肺炎などを起こす生薬を把握しておくこと、「実証」と「虚証」で迷ったら「虚証」向けの薬を選ぶこと、という安全策も紹介していただきました。

 最後に、これからの家庭医療は、医療従事者同士の情報の共有や疾患のサポートはもちろん、患者や家族の背景までをサポートし、更に地域住民と協力していくことが大切であるとお話いただきました。

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第5回(第190回) 9月27日(木)  「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」
講 師: 石野 尚吾 先生

 平成30年度第5回東洋医学研究会は、昭和大学医学部生理学講座、客員教授の石野尚吾先生にお願いしました。

 石野尚吾先生はご専門の婦人科領域のみならず各科に関る症例にて、鍼灸単独または漢方薬と鍼灸の併用療法を実施されています。

 今回は、北里大学東洋医学総合研究所漢方鍼灸治療センターでの症例を中心にご講義いただきました。
北里方式と呼ばれる選穴方法で、経絡調整鍼治療を実施されています。

 変形性膝関節症の鍼治療では、5回以上施術を受けた症例159例(平均治療回数10回、平均治療期間68日)の痛み自覚的変化(Visual Analogue Scale(VAS))についてご報告いただきました。安静時、歩行時、階段昇降時、正座時それぞれのVASが、50.8⇒22.2(安静時)、 47.9⇒23.7(歩行時)、59.8⇒28.9(階段昇降時)、62.8⇒32.5(正座時)と改善します。
帯状疱疹後神経痛では鍼治療によって、痛みによる睡眠障害に改善が見られたこと、毛髪で隠しきれないほど広範囲の円形脱毛症の症例では、鍼治療のみで6か月後に殆どわからなくなった症例などを併せてご紹介いただきました。
また、重大な疾患に繋がる可能性もある症例があることも考慮し、特に脳神経系症状を訴える患者には現代医学的な原因究明と東西医学の病理連携診療が重要であることを強調されておりました。

 更に、鍼灸治療の基本的な考え方や経絡、経穴(WHO基準など)部位の決定方法もご紹介いただきました。
体格には個体差があるため、自身の手の長さを利用して寸法を定義づけているなどというご説明もありました。
鍼治療効果を実証した動物実験の紹介や、実際の臨床現場において現代医薬との併用時の注意などについてもご講義いただきました。

 最後に、鍼治療のデモンストレーションを実際に行っていただき、参加者からは鍼刺入の深さについてなど、質問が続き、盛況のもと閉会となりました。

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平成30年度特別例会 ー 呼吸器・アレルギー内科編 ー  10月23日(木) 「呼吸器領域における漢方治療のEBM」
テーマ: 「呼吸器領域における漢方治療のEBM」

<一般演題> 座長: 昭和大学病院 呼吸器・アレルギー内科 講師 田中 明彦 先生
◎「術後咳嗽に対する麦門冬湯の有用性」
 昭和大学病院 呼吸器外科 助教 南方 孝夫 先生

 一つ目の一般演題では、呼吸器外科助教の南方孝夫先生にご発表いただきました。

 肺切除術後に咳嗽があらわれる患者さんがいらっしゃるが、咳嗽反射に関わる細い神経線維(C線維)の損傷などが原因と言われているそうです。このような術後咳嗽に対して麦門冬湯(ばくもんどうとう)が有効だった症例をご報告いただきました。会場からは、切除する部位により効き方が違うと思われるので、今後も細かな症例報告を期待していますというお声が上がったり、術後合併症などに対しての効果はどうだったのか、というご質問に対し、術後直後は多くの要因があり薬そのものの効果が見えにくいが追っていきたいとご回答いただきました。
◎「COPDの疲労倦怠に対する人参養栄湯の有用性」
 昭和大学病院 呼吸器・アレルギー内科 助教 平井 邦朗 先生

 二つ目の一般演題では、呼吸器・アレルギー内科助教の平井邦朗先生にご発表頂きました。

 日本は平均寿命と健康寿命の乖離が起きているというお話から始まり、高齢者は健康な状態からフレイルとなり、最終的に要介護になってしまうといいます。いかに健康寿命を保つかが課題となっており、タバコの煙などが原因で引き起こされる肺の慢性炎症性疾患であるCOPDもフレイルの原因となります。COPDを発症した患者さんでは疲労倦怠感が出てきますが、そういう方に人参養栄湯(にんじんようえいとう)が有効との症例報告をいただきました。また人参養栄湯には抗不安作用も認められ、身体的なフレイルだけでなく精神・心理的なフレイルの改善にも効果があるということでした。

<特別講演> 座長: 昭和大学 副学長 久光 正 先生
◎「咳・痰・慢性呼吸器疾患に対する漢方の応用」(特別講演)
 昭和大学病院 呼吸器・アレルギー内科 教授 相良 博典 先生

 特別講演では呼吸器アレルギー内科教授の相良博典先生にご講演いただきました。

東洋医学と西洋医学は森と木の関係であり、「西洋は木をピンポイントで治し」、「東洋は森全体を治す」というご説明から始まりました。

呼吸器外来に訪れる患者さんの訴えでは最も多い症状が咳であるといいます。気流制限が咳の原因の場合には気流の流れを太くしてあげればよいが、咳感受性の亢進の場合には対処が難しくなるといいます。先生はこの場合麦門冬湯を使用する機会が多いそうです。具体的には、三週間以上続く遅延性~慢性咳嗽の場合に用いるそうです。湿性咳嗽と乾性咳嗽の見極めをし、全身を診ます。湿性咳嗽の場合には生体防御反応なので、咳を止めてはいけません。乾性咳嗽の場合に麦門冬湯を用います。西洋薬が中枢性鎮咳作用のみであるのに対し、麦門冬湯の利点は中枢性と末梢性鎮咳作用両者を持つことです。作用の行き過ぎもなく、総合的な調節作用で生体の基本的な反射を残しつつ、過敏な状態を改善することができ、高齢者や胃腸虚弱者も適応となります。ただし明確な感染症であれば西洋薬を用いることが多いそうです。

COPDに対しても漢方治療が施されております。その前に基本的な概念として、「いかに健康寿命を延ばして要介護状態になることを防ぐ」ことの重要性をお話しいただきました。サルコペニア(筋力の低下)→フレイル(虚弱)→要介護となるわけですが、この流れを止める必要があります。呼吸器疾患COPD(慢性閉塞性肺疾患)もサルコペニア・フレイルの要因のひとつだそうです。COPD→呼吸困難→苦しいから動かない→活動量低下→呼吸苦の悪化→QOL低下という負のスパイラルに至るため、これを断ち切る必要があります。それには、早期介入の必要性があり、COPDの治療では、気管支を広げる薬の投与だけではなく、食欲・体力の回復や活力の向上も重要だそうです。こうした点については、近年は漢方薬もよく使われるようになっており、咳を改善する漢方薬には「清肺湯(せいはいとう)」が効果的といいます。食欲・体力・気力を補う作用がある漢方薬には「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」などがあり、これらの漢方薬はサルコペニアやフレイルにも有効だそうです。

ご講演の最後には、「西洋医学ではできない部分を漢方薬が補ってくれる場面を臨床でよく体験している」という、ご経験則から実感されているお言葉で締めくくっていただきました。

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第6回(第191回) 10月25日(木)  「ストレスに対する漢方治療および基礎研究」 幸田 るみ子 先生 ・ 砂川 正隆 先生
テーマ: 「ストレスに対する漢方治療および基礎研究」
講 師: 幸田 るみ子 先生 ・ 砂川 正隆 先生

 平成30年度第6回東洋医学研究会は、臨床と基礎の両面から「ストレスに対する漢方治療」についてご講演いただきました。
臨床研究の立場からは国立大学法人静岡大学 大学院人文社会科学研究科 教授の幸田るみ子先生、基礎研究の立場からは昭和大学生理学講座生体制御学部門教授の砂川正隆先生にご講演いただきました。

 幸田先生より、過労による脳・心臓疾患と精神障害は年々増加しているとのこと。そこで業務内外での心理的負荷を少しでも緩和させる方法として、交感神経の過活動を抑える生活習慣のご提案を頂きました。簡便なリラクゼーション法をここでもご紹介させていただきます。

(1) 筋弛緩法といって、わざと筋肉に力を入れてその後ストンと力を抜くことで、力を入れた状態と弛緩した状態を感じ、交感神経系の緊張を緩和して疲労回復や集中力の向上を導いてくれる方法だそうです。食後は避けた方が良いとのこと。やり方は1)基本姿勢を取ります、2)できれば閉眼します、3)手(こぶし)を軽く握って10秒数えます、4)ストンと力を抜きます、5)手、腕、肩、背中、顔と一つずつ進めていき、一日2~3回、毎日行うと効果的だそうです。
(2) ボディースキャンといって、日常では意識しない体の感覚に意識を向けることで反すうしている否定的な思考から離れたり、疲れや不調などといった体への気づきを導いたりすることを目的とします。1)椅子に深く座り、2)両足を肩幅くらいに開き足の裏が床にべたっとつくようにし、3)両手を膝の上に載せます。要は楽な姿勢をとったうえで、4)閉眼します。この状態で、5)頭の上の方から足先までまるでボディースキャンするように、距離はどのくらいなんだろうと自問自答していきます。目と目の距離→耳と耳の距離→右と左の口角の距離→肩幅→・・・つま先というように。

 この他にも、コーピングと言って、「ストレスフルな刺激や、それによって生じた情動を処理するための対処方略」や、ストレスに対する漢方薬についてもご紹介いただきました。生薬としては、半夏や柴胡、桂枝、人参などが有用で、半夏厚朴湯、香蘇散などの気剤をはじめ、小柴胡湯、抑肝散、加味帰脾湯など柴胡を含む方剤、そのほか黄連解毒湯、苓桂朮甘湯などを証に応じて使い分けます。

 これらを使用した症例についてもいくつかご紹介いただきました。

 砂川先生からは、幸田先生からご紹介のあった抑肝散や加味帰脾湯の抗ストレス効果についてご紹介いただきました。

 まず、ストレス反応の誘発に関与するオレキシンと、抗ストレス作用を有するオキシトシンといった神経ペプチドについて説明いただき、これまでに行った基礎研究についてご紹介いただきました。動物実験から、抑肝散も加味帰脾湯も抗ストレス作用を有し、その作用機序としてオレキシンやオキシトシンの分泌調節を介した作用があるかもしれないとのことでした。

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第7回(第192回) 11月27日(木) 「内科・神経疾患に対する原典に沿った漢方治療の応用~最近の印象深い症例について~」 堀部 有三 先生 
テーマ: 「内科・神経疾患に対する原典に沿った漢方治療の応用~最近の印象深い症例について~」
講 師: 堀部 有三 先生

平成30年度第7回東洋医学研究会は、昭和大学神経内科兼任講師でメカマクリニック院長の堀部有三先生に講師をお願いしました。
タイトルの通り、毎年堀部先生には新しい興味深い症例をご報告いただけるため、これを楽しみに、多くの方にご参加いただきました。

 全部で7症例をご紹介いただき、西洋医学的所見と漢方医学的所見をご説明いただいた上で、処方した薬剤とその原典、またその著者の人物像や尊敬できるエピソードなどを分かりやすく纏めてお話いただきました。

1症例目は、75歳からパーキンソン病を発症し、最近食事量が急激に減り、傾眠することが増え、介護に要する時間がかかるようになった、84歳女性です。西洋医学的所見は、やせ型で37度前後の微熱あり、パーキンソン病症状のほか、傾眠傾向が強く、小声。血液検査は異常なし、栄養失調状態に特徴的なLow T3症候群を認め、HDS-R10点と認知症状を認めます。また、東洋医学的所見は、体格は痩せが強い、皮膚は軽度の乾燥あり、冷えは下肢末端に軽度あり。脈候は浮弱、舌候は紅色やや乾燥、薄い白苔を認め、口の中に大量唾液あり、腹候は全体的に腹壁軟弱、胸脇苦満軽度ありといった状態です。入院当初、補液点滴とツムラ六君子湯エキス顆粒5g/分2を開始したが、特に目に見える食欲不振の改善は認めませんでした。そこで、ツムラ補中益気湯エキス顆粒5g/分2で処方開始したところ、徐々に開眼時間、覚醒時間の増加と食欲に改善が認められたため、7.5g/分3に増量したのち、点滴の中止が可能となりました。この補中益気湯を処方する患者さんの特徴としては、全身倦怠感のほか食後に眠くなったり、食欲不振でご飯が美味しくなかったり、温かいものを好むといった点が挙げられるそうです。原典は『内外傷弁惑論』で「脾胃を内傷すれば、その気を傷る(やぶる)」、「内を傷るを不足となし、不足なる者はこれを補う。これを汗し、これを下し、これを吐し、これを尅すれば、みな瀉なり。これを温め、これを和し、これを調え、これを養うは、みな補なり。」「外感、有余の病となしてこれを反って瀉すれば、すなわちその虚を虚するなり。」の説明をいただき、著者である李東垣(りとうえん)のエピソードをご紹介いただきました。とても真面目(周りがひくくらいだそうです(笑))で勉強熱心な方で、「元気を損ずると内傷を起こして病気になるとして、内傷学説を唱え、最も重要な臓器が脾と胃で、その気を補益することが大切であるとして補剤を多く用いたそうです。彼の一派は温補派と呼ばれ、彼の説は朱震享(しゅしんこう)の説と一緒にして李朱医学といわれるそうです。

 ここに記載しきれないほどの、情報収集をしてくださり、このように面白く7症例についてお話いただきました。是非来年もご期待ください。

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第8回(第193回) 12月13日(木)  「薬剤師の視点から見る漢方薬~薬学的学習方法~」 川添 和義 先生
テーマ: 「薬剤師の視点から見る漢方薬~薬学的学習方法~」
講 師: 川添 和義 先生

 平成30年度第8回東洋医学研究会は、昭和大学薬学部 臨床薬学講座天然治療学部門教授の川添和義先生に講師をお願いしました。

 まず、今回のテーマをご選択いただいた経緯をお話いただきました。
医師は種々の診断法を通して漢方薬を決定するが、薬剤師は処方される「漢方薬」の添付文書から想像して患者にアドバイスをするため、適切なアドバイスを出来ないケースがある。どうしたら適切な服薬指導ができるのか、そのためにどのような勉強方法があるのかをご紹介下さいました。

 そのひとつが、「中医学的観点から漢方薬を学ぶ」こと。日本漢方的考え方は「方証相対」が基本となっており、トータルで病態認識を行って方剤を決めます。中医学的考え方は「弁証論治」が基本となっており、病因を弁証し、論治(生薬単位で方剤を決定)します。漢方理論を難しく勉強しようとするのではなく、「身体は常にバランスを保とうとしているが、何かの原因でバランスが崩れると病気になる。漢方の原則はバランスを元に戻すこと」という考え方に基づいて治療方針を理解したらよいとアドバイスいただきました。具体的には「気血水」や「五臓六腑」の状況に基づいて処方されている生薬の役目を想像したらわかりやすいということでした。例をいくつか挙げて頂いたので、ここでも少しご紹介したします。

 体表を守る気を「衛気(えき)」といい、全身に気を巡らせて体表の生理を正常に保ち、カラダを温めて外敵から身を守ります。衛気が少なくなると、体表の生理が悪くなり、体表が温まらなくなり「邪(じゃ)」が侵入します。これを風邪(ふうじゃ)や寒邪(かんじゃ)といいます。「気」を養うには「脾胃(ひい)」の働きを高めることが重要で、「胃」の働きを高める生薬には「甘草(かんぞう)」、「大棗(たいそう)」、「生姜(しょうきょう)」があり、衛気を高める生薬には「桂皮(けいひ)」、「芍薬(しゃくやく)」があります。ちなみに、桂皮がアクセルのようなイメージで、発汗を促して「邪」を追い出す用途で使われるのに対し、一緒に投与される芍薬は、桂皮の発汗作用が強くなりすぎないようにブレーキとしての役割を果たす。そして、これらを目的に処方される漢方薬が「桂枝湯(けいしとう)」といい、感冒の初期に使用されます。

 このように、漢方処方は中医学的な観点を取り入れることによって、理論的に説明することが可能となります。また、「気」や「血」のバランスが乱れると、「痛み」の症状が出てくることが多く、上記のような風邪のときに頭痛などを伴うことがあるというのも、大変興味深いご講演でした。漢方に興味があるけれども、どうしても勉強の糸口が見つけられなかった、という方々にはすっと頭に入ってくる、分かりやすいお話だったのではないでしょうか。

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第9回(第194回) 平成31年1月21日(月)  「耳鼻咽喉科領域の漢方薬」  時田 江里香 先生
テーマ: 「耳鼻咽喉科領域の漢方薬」
講 師: 時田 江里香 先生

 平成30年度第9回東洋医学研究会は、昭和大学医学部耳鼻咽喉科学講座 兼任講師の時田江里香先生に講師をお願いしました。

 昭和大学耳鼻咽喉科では、東京都全体の診療所への出向を担当しており、半年に一度(二週間)小笠原諸島を廻る仕事も持ち回りでされています。25時間の乗船後、医療設備が充実していない環境でも知恵を絞りながら診療を行っているそうです。東京都の心身障害者福祉センターや産業医など外部での仕事もされており、「大学病院の医師は大学のみで診療している」わけではないそうです。

 本題では、耳鼻科の三大疾病(1)メニエール病、(2)花粉症、(3)感冒についての病状と処方する漢方薬についてお話しいただきました。
(1)メニエール病は別名「内リンパ水腫」といって内耳の膜迷路を満たすリンパが何らかの原因で増えすぎて蝸牛管が膨れて起こる疾病です。その原因の一つが「ストレス」といわれており、ストレスによって血中コルチゾール、バソプレシンやオキシトシンが高値になることで、水分バランスが崩れます。メニエール病は、発作性や神経炎性といったストレス以外が原因のめまいに関しても難治化をきたして「慢性めまい」へと移行します。今回、職場が変わりストレスを抱えている55歳女性の症例が紹介されました。漢方医学的所見としての証は「虚証・水毒・気虚」で西洋薬とともに柴苓湯を処方しました。改善傾向がみられなかったため、防己黄耆湯に変更したところ、6週間使用したところでめまいの改善が認められ、ご本人も満足されました。やや肥満傾向の本症例の患者に、いわゆる水太り体質の利水剤として知られる防己黄耆湯が著効した症例でした。症例21例(30耳)に対し、防己黄耆湯を2-4週間処方したところ、投与前後で低音域の聴力が70%改善または治癒し、また自覚症状についても70%が改善または治癒したという既報もご紹介されました。『万病回春』に『耳は腎のあな、腎虚するときは耳聾(じろう)してなる』(現代語に訳すと『耳は生命力、活力の源』)、という言葉があり、「耳鳴」が、加齢による腎虚と判断した場合には補剤を処方します。このように加齢によるもの(腎虚)には補剤、めまいを伴う場合(水毒)には利水剤、気・血が関連する場合(気虚・瘀血)には駆瘀血剤が基本的な考え方だそうです。
(2)花粉症(アレルギー性鼻炎)で小青竜湯や小青竜湯が合わない場合、麻黄が合わないことが多いので、麻黄が配合されない以下の処方を選択します。補中益気湯、小建中湯なども考えられますが、鼻汁やくしゃみの症状が強い場合には苓甘姜味辛夏仁湯を処方します。古来より急性期から亜急性期には麻黄剤、中間から慢性期には柴胡剤、症状によっては麻黄剤と柴胡剤を併用する、という考え方があるそうです。
(3)感冒には葛根湯、麻黄附子細辛湯、香蘇散のほか、咽頭痛を伴う場合には桔梗湯、咳嗽を伴う場合には麦門冬湯、白虎加人参湯、など症状に合わせた処方がされています。

 最後に会場からの「耳鳴りにも音の高低差による違いによって処方を変えますか?」という質問に対し、「原因を探ってメニエール病っぽいと思えば利水剤、高音の耳鳴りだと高齢者の方が多いので、補剤を処方することが多いです」と回答されました。

 今回も豊富な内容でお話いただきましたが、ここにすべてをご報告できません。是非皆様もお誘いあわせの上、会場に足を運んでいただけましたら嬉しく思います。

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第10回(第195回) 平成31年2月14日(木) 「産婦人科領域の漢方薬」  木村 武彦 先生
テーマ: 「産婦人科領域の漢方薬」
講 師: 木村 武彦 先生

 平成30年度第10回東洋医学研究会は、城南レディスクリニック院長の木村武彦先生に講師をお願いしました。

 漢方処方率の高い印象がある産婦人科ですが、日経メディカルによると実際に第一位で、96.7%の産婦人科医が使用したことがあると答え、第二位の皮膚科(87.5%)を大きく離しています。「可逆的変化を主とする疾患」、「虚弱体質・無力体質者の疾患」、「高齢者」といった適応に、ホルモンバランスの乱れや、母体のみならず胎児への影響等を考慮して使用されているようです。
年々使用頻度が高まっている一方で、昨今の保険外しの議論は危惧されるところです。

 今回は産婦人科領域の中でも、特に「月経前症候群;PMS」と「更年期障害」に焦点を当てて、お話しいただきました。
「月経前症候群」とは、月経前3-10日間の黄体期に生じる精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減弱あるいは消失するものをいいます。よって、一般的には月経後も続く症状はPMSに分類されません。PMSは最近発見された疾病という認識の方も多いかもしれませんが、『傷寒論』の「桃核承気湯」の条文で次のように記載されています。「太陽病解せず、熱膀胱に結び、其の人狂の如し。血自ら下る、下る者は癒ゆ(骨盤内に熱がこもり、普通の状態ではないように、人として対応できない状況になるが、月経が始まると元気に戻る)」まさしく、PMSの症状と合致しています。漢方医学的病態として、悪心・頭重感・身体の重い感じ・めまいなどを「水毒」症状とし、頭痛・肩こり・のぼせ・冷え・下腹部の張り・月経痛・月経異常を「瘀血」症状、人格変異・攻撃的態度を「気の複合的異常」と位置付けています。西洋医学の一般的な問診方法である患者ご自身が細かな自覚症状を回答するMDQ(Menstrual Distress Questionnaire)47問+7問やM.I.N.I.(Mini International Neuropsychiatric Interview)と併せ、月経症状の程度や精神状態を加味して薬を処方します。例えば、精神不安要素が多い場合には「加味逍遥散」を処方し、頭痛やめまいなど「水毒」傾向が強い場合には、「半夏白朮天麻湯」を処方します。
「更年期症候群」は「閉経(12か月連続して無月経だった時にみとめる)前後」が対象になります。更年期女性の50〜80%に更年期症状が出現し、このうち約20%の女性が更年期障害の診断を受けるそうで、全ての女性が更年期障害になるわけではありません。また、様々な疾患を複合的に引き起こすように見えますが、他の疾患をすべて除外しても尚、不調が残るときに更年期障害と診断されます。漢方医学的には「腎の機能が、成長から老衰への曲がり角にさしかかる時期に相当」し、三大婦人薬の「当帰芍薬散」「加味逍遥散」「桂枝茯苓丸」のほか、「腎虚」に適応のある「八味地黄丸」や「牛車腎気丸」を処方することが多いそうです。これについては、会場から、「『腎虚』に対して先に挙げた二剤で著効を示さなかった場合、実証適応の「黄連解毒湯」を投与するとよい傾向があるが、合っているnのだろうか?」という質問がありました。石野尚吾先生から「短期的に『黄連解毒湯』を用い、改善した時点で補血剤に切り替えるとよいでしょう」とアドバイスを頂戴しました。

 今後も多くの先生方のお力添えを頂き、当研究会を発展させていきます。引き続きご指導の程よろしくお願い申し上げます。

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第11回(第196回) 平成31年3月14日(木) 「症例報告:脳神経内科領域・在宅医療における漢方」 渡辺 大士 先生 ・ 岩波 弘明 先生
テーマ: 「症例報告:脳神経内科領域・在宅医療における漢方」
講 師: 渡辺 大士 先生 ・ 岩波 弘明 先生

 平成30年度締めとなる第11回東洋医学研究会は、昭和大学医学部内科学講座脳神経内科学部門 助教の渡辺大士先生と同 医学部生理学講座生体制御学部門 兼任講師の岩波弘明先生にお願いしました。お二人は、大学院時代に石野尚吾先生に師事し、漢方を学ばれました。現在、火曜日と土曜日の東洋医学科の外来をそれぞれご担当いただいております。

 まず、渡辺先生には、脳神経内科を受診される方が、どのような症状で、どのような処方をされることが多いのかをご紹介いただきました。
認知症やめまい、しびれ、片頭痛などの不定愁訴などで受診される方が多いとのこと。認知症では、忘れていることに対する焦燥感を経て、易怒的な面が出てきます。抑肝散を処方すると認知症だけではなく易怒性症状も改善傾向へ向かいます。また、めまいにはいくつかのタイプがあり、起立性調節障害のようなめまいには苓桂朮甘湯、高齢や体力が脆弱している方には真武湯、水滞によるめまいには五苓散を処方することが多いそうです。神経の炎症や圧迫などから起こるしびれには午車腎気丸を用います。不定愁訴の方には、ゆっくり治していきましょうと説明したうえで、副作用の少ない漢方を試すことを提案すると、大概は漢方治療を所望されます。上半身の肩こりには葛根湯、関節痛や筋肉痛には麻杏慧甘湯、冷えからくる貧血や腰痛には当帰芍薬散,四肢などの末端の冷えには当帰四逆加呉茱萸生姜湯をよく処方されるそうです。

 次に、岩波先生からは在宅医療での漢方処方についてご紹介いただきました。
在宅医療の利点は、異変にいち早く気づいてくれるご家族の存在です。病院の利点としても退院先が確保されているため、入院日数を減らすことができます。何よりも、最期を迎える場所に自宅を希望する方が大半です。訪問診療と病院での診療では、精密検査の実施が困難であるという大きな違いがあります。漢方の診察の場合、四診(望診・聞診・問診・切診)は医師の五感を使うので、訪問診療に適しているといえます。しかし、漢方薬を提案すると嚥下機能の低下した患者にはとろみが必要なので、ご家族から飲ませにくいと言われることもあります。そこで、先生は少しでも漢方薬になじんでもらう工夫をされています。例えば、漢方薬について「実はカクテルみたいなお薬の作り方なんですよ、メインの素材(生薬)があって、そこに素材の魅力を引き立てたり、素材のクセを取ったり、あえてひと手間加えて更に効果を期待できる組み合わせになったりと・・・」と説明します。岩波先生は学生時代から漢方生薬研究会に所属していたので、色々な知識をお持ちです。よく使う処方は、虚弱体質で神経が高ぶるような神経症・不眠症に抑肝散、体力が衰えて神経が過敏になることで起こる不眠症やイライラ・神経症に桂枝加竜骨牡蛎湯、虚証でやや水分欠乏がある常習性便秘に麻子仁丸、こむら返りに芍薬甘草湯など。
終わりに、夜間頻尿の症例をご紹介いただきました。88歳の女性、主訴は就寝後5〜6回ほど排尿のため起きてしまう。上記の四診を行ったところ、望診ではやや太め、聞診では尿臭異常なし、問診では残尿感やのどが渇きやすい、切診では腹力中等度となり、結果から猪苓湯を処方。1か月で夜間の排尿は1回に改善されました。今後、訪問診療で漢方処方の活用が期待される症例報告でした。

 最後に、今年度の皆勤賞の方々が表彰され、和やかな雰囲気で閉会となりました。

 来年度も皆様のご参加を心からお待ち申し上げております。

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平成29年度

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第1回(第175回) 4月13日(木) 「漢方医学の基礎」 石野 尚吾 先生
テーマ:  「漢方医学の基礎」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 おかげさまで平成12年度から始まった東洋医学研究会も平成29年度で18年目を迎えることが出来ました。これもご講演いただきました先生方およびご出席をいただきました多くの方々のお力によるものであり、心よりお礼申し上げます。また今年度もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 本年度第1回は、昭和大学医学部生理学講座生体制御学部門客員教授の石野尚吾先生にお願いを致しました。この研究会は東洋医学を初めて学ぶ人が一年間を通して参加すると、東洋医学の全体像が理解できるようになることを目的にしております。そこで今回石野先生からは東洋医学の基礎についてお話しをいただきました。

 東洋医学には漢方薬を使った薬物療法と鍼灸・あんまなどを使った物理療法があり、それらは日本の伝統医学として現在でも国民の関心は高くまた多くの国民が実際に用いているそうです。そして今では身近な存在になった西洋医学が同じ病気には同じ治療を提供する医学であるのに対して、東洋医学は同じ病気であっても患者さんの体格・症状のあり方などによって治療が一人一人異なる特徴があります。それは東洋医学が人の身体と心は一体であると考え、個人差・個別性を尊重して心身全体の調和を図ることを大切にしてきた医学だからと説明されました。そしてこのような違いのある西洋医学と東洋医学が適切に患者さんに提供されて最高の診療が実現する為には、それぞれの医学が別々に独立した形で診断と処方がなされることが望ましいとお話しされました。

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第2回(第176回) 5月18日(木)  「漢方の診察法」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方の診察法」
講 師: 石野 尚吾 先生

 第2回東洋医学研究会は、第1回に続いて昭和大学医学部生理学講座生体制御学部門客員教授の石野尚吾先生にお願いをし、漢方薬の処方を決める診察法についてお話をいただきました。

 東洋医学の診察法には、視覚によって行う望診(ぼうしん)、聴覚・嗅覚によって行う聞診(ぶんしん)、診断に必要な事項を問う問診(もんしん)、触診に該当する切診(せっしん)があります。なかでも特徴的なのは患者の舌を診る舌診、脈を診る脈診、おなかを診る腹診です。映画やテレビの時代劇に登場する医者が行う舌診は望診にあたり、舌の上に白い苔が付着していたり、歯形が着いている様子などをみて全身状態を判断します。また脈の強さ弱さなどをみる脈診やおなかの硬さ・柔らかさやその場所などをみる腹診は切診にあたり、それぞれの診察法から何が判断できるのか詳しく解説をしていただきました。そして会の後半では、腹診で使用される難解な専門用語、たとえば胸脇苦満(きょうきょうくまん:胸から脇にかけて重苦しく張っている様子)・小腹不仁(しょうふくふじん:おなかの上部は硬いが下腹部が柔らかい様子)などの理解を助けるためにおなかのモデルが用意され、参加者は実際に手で触れて感じながら東洋医学的診察法を体験していました。

 最後に血液検査やMRIなど科学的な検査手段を何ももたなった時代にどのようにして先人たちは情報を集めて処方を決めたのか、その方法論は現在でも活用できるものが多いことを先生は強調され、第2回目の研究会が終わりました。

東洋医学研究会38
第3回(第177回) 6月29日(木) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬の知識」 平井 康昭 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬の知識」
講 師: 平井 康昭 先生
 第3回東洋医学研究会は、昭和大学富士吉田教育部教授の平井康昭先生にお願いして、生薬のお話しをして頂きました。

 漢方薬はいくつかの生薬を組み合わせてできており、そのほとんどが植物由来です。私たちが実際に病院から処方されたり、一般の薬局で購入することが多い身近な漢方薬にもたくさんの生薬が使われています。
先生はそれらの生薬が自生している様子と加工した後の様子を写真で紹介し、それぞれの特徴・薬効を丁寧に説明してくださいました。時折、生薬にまつわる様々なエピソードを交えてくださいましたが、それらは平井先生の植物に対する深い造詣と愛情を知ることができる興味深いお話でした。また途中では、体力がなく弱々しい方向けの胃腸薬に『六君子湯(りっくんしとう)』がありますが、その材料である8つの生薬(ソウジュツ、ニンジン、タイソウ、ブクリョウ、カンゾウ、ショウキョウ、ハンゲ、チンピ)が用意されました。参加者はひとつひとつ生薬を見て触れ、香りを嗅ぐことができました。そして次に先生はこれらの生薬を合わせて水から煮出し、『六君子湯』、『大建中湯(ダイケンチュウトウ)』、『葛根湯(カッコントウ)』を作成してくださいました。参加者の皆さんはそれぞれの漢方薬を手にして香りの違い、味の違い、飲みやすさなどについてお互い感想を語り合う、楽しい学びとなりました。

 本日は漢方薬と生薬についての基礎知識を得て、原料となる生薬に実際に触れ、いくつかの生薬からできる漢方薬を味わうという体験を私たちはさせていただいきました。あらためて植物がもつ力とそれを上手に利用してきた先人の知恵を知る講義となりました。

東洋医学研究会39
第4回(第178回) 7月3日(月) 「プライマリ・ケアで役立つ東洋医学(漢方薬・円皮鍼)」 樫尾 明彦 先生 
テーマ: 「プライマリ・ケアで役立つ東洋医学(漢方薬・円皮鍼)」 講 師: 樫尾 明彦 先生  

 通算178回目の東洋医学研究会の講師は、家庭医の 樫尾明彦 先生にお願いしました。
樫尾先生は昭和大学の漢方外来で東洋医学を学ばれ、現在は給田ファミリークリニックおよび和田堀診療所でプライマリ・ケアに従事されています。

 プライマリ・ケアは広い範囲の医療を担いながらライフイベントに対して断続的に関わることが多く、東洋医学の全人的な概念が合致するそうです。また高齢者の訪問診療では、沢山の疾患をお持ちで、複数の科を受診されている患者さんが多く、全体の舵取り役を家庭医が務めることが期待されています。さらに副作用や腎機能の問題から薬を増やすことが出来ない患者さんに対して樫尾先生はひとつの処方で沢山の効果が期待できる漢方薬を使用することがあるそうです。

 高度医療などのフォーマルサポートと家族などのインフォーマルケアの間を橋渡しする家庭医の役割が今後期待されます。

東洋医学研究会40
第5回(第179回) 9月21日(木)  「ストレスに対する漢方治療」 幸田 るみ子 先生
テーマ: 「ストレスに対する漢方治療」
講 師: 幸田 るみ子 先生 
 第5回東洋医学研究会は静岡大学学術院人文社会科学領域教授幸田るみ子先生にお願いして、ストレスに対する漢方治療のお話しをして頂きました。

 主にストレスが原因のうつ病や心身症などの患者数は近年増加の一途を辿り、大きな社会問題となっています。東洋医学的にみると私達の身体が正常に機能するためには、「気(=エネルギー)」、「血(=血液)」、「水(血以外の液体)」の3要素が体内をスムースに流れることが大切だと言われていますが、ストレス疾患ではこのうちの「気」の流れが乱れたり、不足したりすることが原因と考えられています。このような状態に対して東洋医学では古来より「気」の流れを正常にする気剤や不足を補う補剤、そして柴胡を使った柴胡剤などの漢方薬を使って改善を図ってきたそうです。その上で先生は近親者の死別、家族間の問題、身体機能の衰えなど私たちの身近に存在するライフサイクル上のストレスが原因で生じた様々な症例をあげて、漢方治療の有効性をお話しして下さいました。ここでは抑肝散や加味逍遥散など多くの方剤が登場しましたが、先生はどうしてその症例に対してこの方剤を処方したのかについて舌診や腹診などをもとに解説して下さり、初学者にとっては大変難しい方剤決定のヒントを頂くことができました。

 今回の講演では、心の病が増加する背景として、私たちが生きていくなかで避けられないライフサイクル上のストレスが深く関わっていることを教えていただきました。そしてそのようなストレス軽減の効果的な手段として、西洋薬やカウンセリングだけではなく漢方薬があることを示してくださいました。

東洋医学研究会41
第6回(第180回) 10月19日(木) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第6回東洋医学研究会は、昭和大学医学部生理学講座生体制御学部門客員教授石野尚吾先生にお願いして、「鍼灸治療入門」と題してお話しを頂きました。

 鍼灸治療は皮膚に鍼を刺したり、もぐさを燃やして刺激することで鎮痛、血流改善など様々な効果を引き出す治療法です。鍼や灸で刺激する場所は経穴(ケイケツ)と呼ばれ、2006年に世界保健機関(WHO)によってそれらの場所が世界標準化されました。これによって鍼灸治療は有効な医療として世界に認知されることになりましたが、石野先生はこの経穴の世界標準化に日本代表として関与されており、当時を振り返って決定に至るまでの貴重なお話を聞かせていただくことができました。

 鍼灸治療の効果については、昭和大学の武重千冬先生、久光正先生らの基礎研究によって鎮痛、自律神経調節、血流改善や免疫力の向上などの効果が明らかにされているそうです。また臨床面では先生ご自身の臨床研究とともに、お父様である石野信安先生が三陰交(サンインコウ)という経穴を使ってお灸で逆子を治す研究を世界で初めて報告されたことについて紹介してくださるなど、産婦人科領域における鍼灸の有効性をお話しして下さいました。しかし、鍼灸治療のエビデンスはまだ十分とは言えず、今後も基礎・臨床面からの科学的解明がなされることを期待したいとお話ししておりました。

 講義の終わりでは、実際に石野先生自らが鍼と灸を使って治療の様子を見せて下さり、鍼灸治療の理論と実技を一度に学ぶ密度の濃い講義となりました。

東洋医学研究会42
第7回(第181回) 11月30日(木) 「最近の医学的問題に対する東洋医学的治療」 堀部 有三 先生
テーマ: 「最近の医学的問題に対する東洋医学的治療」
講 師: 堀部 有三 先生  

 第7回東洋医学研究会は昭和大学医学部内科学講座神経内科学部門兼任講師の堀部有三先生にお願いして「最近の東洋医学に関する話題」と題して、お話を頂きました。

 ひとつめのお話は生薬の「遠志(オンジ)」についてでした。遠志はイトヒメハギの根を乾燥したものですが、認知症患者さんの増加が社会問題となっている昨今、この遠志が物忘れ改善薬として注目を浴びているのだそうです。遠志を含んだ方剤には『加味帰脾湯(カミキヒトウ)』や『人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)』などがありますが、先生はこれらの方剤が加齢による物忘れの改善や軽度認知障害に対して確かに効果的であると症例をあげて報告して下さいました。しかしこのような遠志の使い方は、1~2世紀ころに書かれたという中国最古の薬物書「神農本草書」には既に精神を安らかにして健忘に効くという記載があるのだそうです。
 つぎのお話は気象病と漢方薬についてでした。最近天気が悪いと膝が痛い、頭痛がする、ぜんそくがひどくなるという話をよく耳にしますが、それは気象病という立派な病なのだそうです。欧米ではメテオロパシーと言われて最近認知されつつあるそうですが、その原因はよくわかっていません。しかし驚くべきことに東洋医学では「金匱要略」や「脾胃論」という古典に既にその記述はあるそうです。東洋医学的にみると気象病は心身の健康をつかさどる気・血・水の3要素のうち水のバランスが崩れたために起こるのであり、『五苓散(ゴレイサン)』、『半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)』、『防己黄耆湯(ボウギオウギトウ)』などを使ってこれらの改善を図ることで対処できるのだそうです。

 先生は東洋医学の先人らが確立したこれらの方法論が、認知症や気象病という現代病を解決する糸口になっていることにあらためて感嘆せざるを得ませんと語り、今回の講演を締めくくられました。

東洋医学研究会43
第8回(第182回) 12月14日(木) 「臨床に生薬の知識」 川添 和義 先生
テーマ: 「臨床に生薬の知識」 
講 師: 川添 和義 先生
第9回(第183回) 2月22日(木) 「漢方の基礎・臨床研究」 砂川 正隆 先生
テーマ: 「漢方の基礎・臨床研究」  
講 師: 砂川 正隆 先生
第10回(第184回) 3月15日(木) 「症例検討会」 各研究室
テーマ: 「症例検討会」
講 師: 各研究室
第11回(第185回) 3月26日(月) 「耳鼻科領域で役立つ漢方治療」 時田 江里香 先生
テーマ: 「耳鼻科領域で役立つ漢方治療」
講 師: 時田 江里香 先生

平成28年度

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第1回(第164回) 4月14日(木) 「漢方医学の基礎」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方医学の基礎」
講 師: 石野 尚吾 先生
 平成28年度、最初の東洋医学研究会の講師は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。例年同様、はじめて漢方医学を学ぶ方々に必要な「漢方医学の基礎」をテーマにお話しいただきました。

 昭和大学では、昭和医学専門学校の頃から漢方に関する研究や治療が盛んにおこなわれ、平成となった現在でも石野先生をはじめ多くの先生方が基礎と臨床において研究と治療を引き継いで、沢山の効果をあげています。
 講演では、西洋医学と東洋医学を対比させながら、その違いをもとに東洋医学の大系をわかりやすく説明下さいました。また東洋医学の歴史、中国・韓国など近隣諸国と日本の東洋医学の違いなどについて概説頂きました。日本では他国に比べ西洋医学の医師が東洋医学を取り入れる素養が備わっており、研究と臨床の両面で大変恵まれた環境にあるとお話になっていました。

東洋医学研究会44
第2回(第165回) 5月19日(木) 「漢方の診察法」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方の診察法」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第2回目の東洋医学研究会は、第1回目に続いて昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、東洋医学における診察法についてお話し頂きました。

 漢方医学では「病の応は大表に見る」といわれ体表の所見を通して全病像の把握に努めます。実際には“望・聞・問・切”と呼ばれる“四診”で診断をします。視覚を用いた“望診”、聴覚と嗅覚による“聞診”、“問診”、触診による“切診”の4つの方法で診察します。特に日本の鍼灸では脈診を、漢方(漢方薬)では腹診に重きをおいて診察を行います。講習の後半では、腹診のモデルを用いて実際の感触を体験して頂きました。

  “証”に基づいた治療(随証治療)を身につけることで西洋医学では病名がつかない症状や病態に対して治療をおこなうこともできます。漢方治療を有効に活用する為にも東洋医学的な診察法を心がけてもらいたいとお話しになっていました。

東洋医学研究会45
第3回(第166回) 6月16日(木) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬の知識」  平井 康昭 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬の知識」 講 師: 平井 康昭 先生  

 第3回目の東洋医学研究会は、昭和大学富士吉田教育部 ウェルネス教育研究部門 医薬資源学の 平井康昭 先生にお願いして、漢方薬作りに欠かせない“漢方生薬の特徴”についてお話し頂きました。

 漢方薬は生薬と呼ばれる天然に存在する植物・動物・鉱物を使用します。生薬は天然に存在する産物からできた薬ですので、植物系の生薬であればその生育条件が薬効に大きく影響します。例えば、日本では朝鮮人参(オタネニンジン)を育ててもあまり薬効成分が含まれないそうです。ところが平井先生の所属されている山梨県の富士吉田付近では、江戸幕府から依頼されて朝鮮人参が栽培されていた経緯があります。これは富士吉田の涼しく、豊富で綺麗な水などの条件が朝鮮人参の栽培に適していたことに由来します。また漢方薬には副作用がないと考えられているかもしれませんが、各生薬には沢山の薬効成分が含まれていて、なかにはドーピング検査に抵触するものも含まれます。講演では生薬の薬効や注意点などを分かりやすくご紹介頂きました。

 講演の後半には、実際に煎じた漢方薬を参加者の皆さんで試飲して、市販のエキス剤と比較しながら、『煎じ薬』の香りと苦みを実感して頂きました。

東洋医学研究会46
第4回(第167回) 7月6日(水) 「プライマリ・ケアで役立つ漢方治療」  樫尾 明彦 先生
テーマ: 「プライマリ・ケアで役立つ漢方治療」
講 師: 樫尾 明彦 先生 
 通算167回目の東洋医学研究会の講師は、和田堀診療所所長の 樫尾明彦 先生にお願いして「プライマリ・ケアで役立つ漢方治療」というテーマでお話し頂きました。

 普段から患者さんの健康状態を診る「かかりつけの医師」のことをさします。患者さんのご家族や周辺地域の環境などを含め総合的に把握して、患者さんだけでなくその家族と医師との間の相互信頼関係がとても大切な医療といわれています。家庭医療の専門医である樫尾先生のもとには、幅広い年齢層、不定愁訴、他科・多職種との連携が必要な患者さんが多く訪れるそうで、漢方を用いた診察法と治療が役に立つそうです。具体的には沢山の診療科を受診している多剤併用(ポリファーマシー)の患者さんや効例に伴う複数科の併診を余儀なくされる高齢者の患者さんの舵取り役となることがあるそうで、多剤服用による副作用などにも注意して医療間連携をはかるとともに、異病同治の観点から複数の症状をひとつの漢方薬の処方にきりかえる工夫をされているそうです。また樫尾先生は訪問診療の際には円皮鍼という置き鍼を携帯して、現場での患者さんの訴えにできる限り寄り添うようにしているそうです。

 プライマリ・ケアにおいては、患者や家族とのコミュニケーションを密にとり診療を進めるとともに、定期的に西洋医学的な検査をおこなって病態を把握することが大切です、とお話しになっていました

東洋医学研究会47
第5回(第168回) 9月27日(火) 「ストレスに対する漢方治療」 幸田 るみ子 先生
テーマ: 「ストレスに対する漢方治療」
講 師: 幸田 るみ子 先生  

 第5回目の東洋医学研究会の講師は、静岡大学人文社会科学研究科の 幸田るみ子 先生にお願いしました。

 心身医学では"Seven Holy Disease"という表現で『本態生高血圧、気管支喘息、消化性潰瘍、神経性皮膚炎、甲状腺中毒症、潰瘍性大腸炎、慢性関節リウマチ』の7つの疾患について心理的現象が身体に反映するといわれています。心身医学は「心理活動が自律神経、内分泌、免疫系を介して身体疾患の成立に深く関与する病態」を研究する学問でしたが、近年では、脳生理学、神経心理学、神経内分泌学、精神神経免疫学など生物学的研究および行動医学、認知心理学、学習理論など内面的活動に対する研究が発展してきました。

 東洋医学には『心身一如』という考え方に基づき心と身体の調和を図ることを基本としています。抗ストレス作用を期待する場合には、半夏・柴胡・桂枝・人参などの生薬を含む処方が適応となるそうです。東洋医学の応用はストレス社会において有効な手段のひとつとお話になっていました。

東洋医学研究会48
第6回(第169回) 10月20日(木) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第6回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学医学部客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」というテーマで講義および実演して頂きました。

 石野先生が鍼灸をおこなう上で心がけていることは、(1)悪化させないこと、(2)医療事故を起こさないこと、(3)症状や訴えに隠れている重大な病気を見逃さないこと、の3つだそうです。また先生は鍼と漢方を併用されています。鍼は即効性に、漢方は長く継続して効果を発揮する点が優れており、上手く双方を取り入れることで治療効果を上げるようにしています。
さらに、現代医学と鍼灸と漢方の3つの視点から診察・治療を行うことができ、西洋医学の観点から鍼灸治療の効果判定を評価できる点において医師が鍼灸治療をメリットがあるとお話されていました。

 今後、医療の中で鍼灸を利用できる制度を構築する必要があるとお話しになっていました。

東洋医学研究会49
第7回(第170回) 11月24日(木) 「冷え症に対する東洋医学の効果を科学的に検討する」 堀部 有三 先生
テーマ: 「冷え症に対する東洋医学の効果を科学的に検討する」
講 師: 堀部 有三 先生  

 第7回目の東洋医学研究会は、昭和大学 医学部 内科学講座 神経内科部門 兼任講師の 堀部有三 先生にお願いして、 “冷え性に対する東洋医学の効果を科学的に検討する”というテーマで、先生の経験された漢方治療についてお話し頂きました。

 冷え症は、四肢などが温まらずに冷えているような感覚のこととされています。平成22年の国民生活基礎調査においても女性のおよそ40%の方が冷えを自覚しており世間的関心は非常に高いにも関わらす、西洋医学では病態としての定義はなく、不定愁訴のひとつと考えられています。東洋医学では未病のひとつとして、その増悪は膀胱炎や頻尿、自律神経の失調などを来すことから改善すべき症状とされています。

 堀部先生は、冷え症に『当帰四逆加呉茱萸生姜湯』や『猪苓湯合四物湯』を継続して処方して超音波検査器を用いて経過を観察したところ血流の改善が確認されたそうです。身近な機器で未病の症候をつかむ試みはとても興味をひくお話しでした。

東洋医学研究会50
第8回(第171回) 12月15日(木) 「産婦人科領域で役立つ漢方治療」  石野 博嗣 先生
テーマ: 「産婦人科領域で役立つ漢方治療」 講 師: 石野 博嗣 先生  

 第8回目の東洋医学研究会は、昭和大学病院で漢方外来を担当されています 石野博嗣 先生にお願いして、「産婦人科領域で役立つ漢方治療」というテーマでお話し頂きました。

妊娠中の漢方治療の目的と処方の例です。
 安胎→当帰芍薬散、きゅう帰膠艾湯
 妊娠悪阻→小半夏加茯苓湯、半夏瀉心湯、五苓散、人参湯
 妊娠貧血→十全大補湯、加味帰脾湯、補中益気湯
 浮腫→五苓散
 妊娠高血圧症候群→紫苓湯、五苓散、防已黄耆湯
 便秘→大黄甘草湯、調胃承気湯

 妊娠期間中の薬剤投与については催奇形をはじめ胎児毒性などの問題があります。漢方薬についても器官形成期(妊娠2ヶ月)の服用は極力避け、病が治ったらなるべく早期に投薬を止めることが原則となります。また麻黄湯のように末梢循環を減少させる生薬もありますので使用に際しては十分注意して欲しいとお話しになっていました。

東洋医学研究会51
第9回(第172回) 1月16日(月) 「耳鼻咽喉科領域の漢方薬」 時田 江里香 先生
テーマ: 「耳鼻咽喉科領域の漢方薬」
講 師: 時田 江里香 先生  

 第9回の東洋医学研究会は、昭和大学病院耳鼻咽喉科の 時田江里香 先生にお願いして「耳鼻咽喉科領域の漢方薬」というテーマで時田先生が経験した症例について、西洋医学的な視点と東洋医学的な視点から分析し、方剤決定に至るまでの過程を解説してくださいました。

 慢性副鼻腔炎にともなう後鼻漏(鼻水がのどに流れ落ちる症状)に『荊芥連翹湯』が、メニエール病にともなう耳鳴・難聴に『柴苓湯』が奏功したそうです。またアレルギー性鼻炎には一般的に『小青竜湯』を使用しますが、水様性鼻汁が強いときには『小青竜湯』から麻黄と桂皮と芍薬をぬいて茯苓と杏仁を加えた『苓甘姜味辛夏仁湯』の処方が有効だそうです。

 「耳鼻咽喉科の診察において腹診などの東洋医学的診断をおこなうことは難しいですが、耳や鼻の疾患では“水毒証”をどう見極めるかが大切で、舌診や鼻粘膜の変化からできるかぎり東洋医学的な観察をおこなうようにしています。」とお話になっていました。

東洋医学研究会52
第10回(第173回) 2月23日(木) 「漢方薬の基礎研究より~腸管運動とストレス反応の制御~」 砂川 正隆 先生
テーマ: 「漢方薬の基礎研究より~腸管運動とストレス反応の制御~」
講 師: 砂川 正隆 先生  

 第10回東洋医学研究会は、昭和大学医学部生理学講座生体制御学部門准教授の砂川正隆先生にお願いして、基礎研究の立場から漢方薬の有効な投与量についてお話し頂きました。

 1つめのお話は腸管運動に対する『大建中湯』の研究でした。便秘と下痢は相異なる腸の症状ですが漢方薬ではどちらの症状の時にも『大建中湯』が処方されます。砂川先生は一つの薬が異なる作用を発揮する現象を明らかにするために、人工的に便秘モデルを用いて検討しました。その結果『大建中湯』を適切な量で服用すると腸の運動量は増えて便秘は改善に向かうのですが、沢山服用すると運動量が増えずに便秘は改善しないことがわかりました。そのメカニズムとして腸管運動リズムを形成している細胞に『大建中湯』の成分が作用していると推測しています。

2つめのお話は『抑肝散』によるストレス状態の改善に関する研究でした。様々な種類のストレスにさらされた動物には不安や攻撃性などのストレス症状が現れますが、『抑肝散』はそれを改善することがわかっていました。そのメカニズムを調べる為、先生はオレキシンという主に脳内で作られ、睡眠や食欲の調節のほか、ストレスが加わると増加して不安や恐怖などを引き起こす物質に着目しました。そして隔離して飼育すると攻撃性が増す孤立ストレスラットを使って『抑肝散』を投与したところ、ストレスで増加したオレキシンが減少し、攻撃性も低下したそうです。さらに調べてみると、『抑肝散』を適切な量で与えた時にオレキシンは減少しますが、多く与え過ぎるとオレキシンは変化しないことが明らかになりました。

 これらの結果から先生は「漢方薬には有効な投与量があって、もし臨床で効果が現れない時には投与量を減らしてみる選択肢もあるのではないでしょうか」とお話になっていました。

東洋医学研究会53
第11回(第174回) 3月21日(火) 「症例報告」
テーマ:  「症例報告」
◎「漢方薬により症状の改善が認められた口腔扁平苔癬の1例」 
 昭和大学歯科病院 顎顔面口腔外科 鎌谷 宇明 先生
◎「月経周期依存性の発熱に漢方薬が有効であった3例」    
 昭和大学江東豊洲病院 周産期センター 内山 心美 先生
◎「東洋医学科からの症例提示」        
 昭和大学病院 東洋医学科 渡辺 大士 先生 金田 祥明 先生 山﨑 永理 先生

 第11回東洋医学研究会は様々な診療科目から5人の先生方にお願いして、漢方薬が効を奏した症例についてお話しいただきました。

 昭和大学歯科病院顎顔面口腔外科の鎌谷宇明先生から口腔扁平苔癬という難治性の口腔粘膜症状に対して抗炎症作用をもつ『半夏瀉心湯』の著効例を報告頂きました。

 また昭和大学江東豊洲病院周産期センターの内山心美先生から月経前に定期的に起こる発熱に『柴胡桂枝湯』が有効であった症例を報告頂きました。

 次に昭和大学病院漢方外来を担当されている渡辺大士先生から高齢者に多い変形性膝関節症と両ふくらはぎの痛みに『防已黄耆湯』が、原因不明の手の震えに『甘麦大棗湯』が効果を認めた症例をご紹介頂きました。

 さらに同東洋医学科の金田先生と山﨑先生から右腰部と股関節痛を訴える患者に『疎経活血湯』が、泌尿器からの止血に『きゅう帰膠艾湯』が有効であった著効例を報告頂きました。

 報告会のあと、平成28年度全11回の勉強会に積極的に参加された方々の表彰が行われ、平成28年度最後の研究会を無事に終えることができました。平成29年度の東洋医学研究会もよろしくお願い申し上げます。

東洋医学研究会54

平成27年度

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第1回(第153回) 4月8日(水) 「漢方医学の基礎知識」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方医学の基礎知識」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 東洋医学を有効に使うためにも基礎概念はとても大切です。東洋医学の基礎は難解ですが、講演後に石野先生は多くの質問にお答えになっていました。次回の研究会では、東洋医学的な診断の方法を、実技をまじえて勉強する予定です。通算153回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。

 本年度最初の研究会ということで、はじめて漢方医学を学ぶ方々に必要な「漢方医学の基礎知識」をテーマにお話しいただきました。東洋医学の基本に“心身一如”という思想があります。これは「喜怒哀楽の感情の変化が病気を引き起こすことも、また治すこともある。」という考え方で、身体と精神は切り離すことができず、双方の調和を図ることの重要性を説いています。「病気を診るのではなく病人を診る。病気を治すのではなく病人を治す」 とよくいわれますが、患者の状態を全人的にとらえて治療方針を立てる東洋医学の考え方は、現代医学のモデルとして見直されています。特に現代医学における漢方の役割として期待されているのは、(1)原因が特定できない場合でも体質を改善していくことで治療効果が期待できる。(2)高齢者の体力増進を促す。(3)副作用が少ないことから慢性疾患に対しての長期投与が可能である。ことなどです。

 東洋医学を効果的に活用するためにも、この研究会を通じて東洋医学の考え方を身につけて欲しいとお話しになっていました。

東洋医学研究会55
第2回(第154回) 5月20日(水) 「漢方の診察法」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方の診察法」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第2回目の東洋医学研究会は第1回目に引き続き、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。
前回、漢方治療を有効に活用する為には“証”に基づいた治療(随証治療)を心がけてもらいたいとお話しになっていたことを受けて、今回は東洋医学における診察法をお話し頂きました。

 西洋医学では、どんな病気かを診断して(病名を決めて)、その病気に対して薬を処方します。東洋医学的な診断では、どの処方(方)が有効な病人であるかを診断(証を立てを)していきます。風邪を訴えて来院した患者を例に取ると、発熱の有無、冷え感の有無、発汗の有無、元気の有無、内臓症状の有無など患者の全般的な体力・状態を把握していき、「陰陽」「虚実」「表裏」「寒熱」という大ざっぱな分類をします。次に、舌診や腹診、脈診などで「気血水」「病位」などを含めて病態を把握して、『葛根湯が適応となる証』や『小柴胡湯が適応となる証』という判定をします。葛根湯証は、表の実熱で、首筋がこわばり、汗はかかず、時に体表に炎症や充血をともなうような病態をさしますので、風邪のひき始めのような時が該当しますが、患者の状態によっては慢性頭痛や肩こり、五十肩などの病名が付く時にも処方されることがあります。このように病名が異なるのに、同じ処方がされることを『異病同治』と呼びます。さらに西洋医学では病名が付かない時にも、患者の訴えと病態から“証”を決定して治療することができますので、いわゆる『未病』に対しても治療方針が決定されます。

 現在、日本では病名に対して漢方を処方される医師が多いですが、“証”に基づいた処方をおこなうと治療の幅が広がるのかもしれません。

東洋医学研究会56
第3回会(第155回) 6月17日(水) 「漢方生薬・薬理と煎薬、診察方法(特に腹診)」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方生薬・薬理と煎薬、診察方法(特に腹診)」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第3回目の東洋医学研究会は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、“生薬の薬理作用と漢方処方”および“腹診に基づく漢方処方”についてお話し頂きました。

 漢方薬は天然に存在する植物・動物・鉱物からなる生薬を組み合わせて使用します。例えば「当帰芍薬散」という処方には、免疫賦活作用のある「当帰」、鎮痛作用のある「芍薬」、末梢血管拡張作用のある「川きゅう」、炎症を抑える「蒼朮」、利尿作用のある「沢瀉」、消化機能を高める「茯苓」の6種類の生薬がブレンドされていて、『血』の巡りを良くしたり、余分な『水』を取り除いたりする効能が期待されます。実際に、婦人科疾患の際に下腹部の血の巡りを改善したり、片頭痛やむくみ、めまいの原因となっている血液やリンパの循環不全を改善することを期待して処方されることがあります。
 また日本漢方では、腹診をもとに証をきめる(処方薬を決定する)ことがあります。例えば、みぞおちから肋骨弓にかけて腹部を押した時に抵抗感を感じるような状態を『胸脇苦満』と呼び、「小柴胡湯」などの柴胡剤を処方します。またお臍の横に強い拍動を感じるときは腹筋に力が入らない状態の多くは“虚証”ととらえて『補中益気湯』などの補剤を処方します。

 全身の症状を把握するのはもちろんのこと、腹部所見をとることでより“証”を把握しやすくなりますので是非チャレンジしてみて下さい。

東洋医学研究会57
第4回(第156回) 7月29日(水) 「プライマリ・ケアで役立つ漢方治療」 樫尾 明彦 先生
テーマ: 「プライマリ・ケアで役立つ漢方治療」 講 師: 樫尾 明彦 先生  

 通算156回目の東洋医学研究会の講師は、医療福祉生協連 家庭医療学開発センター 和田堀診療所の 樫尾明彦 先生にお願いして、「プライマリ・ケアで役立つ漢方治療」というテーマでお話し頂きました。これまでの3回の概論と異なり、少し各論的な講演内容でした。

 日本では、診療所での外来や在宅に携わる“家庭医”と病院で活躍する“総合医”がプライマリ・ケアの診療を担当しています。樫尾先生は、前者の家庭医療専門医として従事されています。家庭医の診察では診察時間の約半分を訪問診療が占めます。またほとんどの患者さんが高齢者であるため、不定愁訴を抱えることも多く、漢方薬がとても重宝するそうです。
主訴が下痢と軟便の患者が来院した場合、西洋医学では大腸癌、内分泌障害、過敏性腸症候群などが潜んでいないか注視しながら診察・治療を試みます。しかし高齢者の場合には必ずしもこれらの病気がなくても慢性的に当該の症状を訴えることが少なくありません。このように病名が付かなくても症状がある場合に“処方(証)から鑑別”する東洋医学が有効な手段となるそうです。

 高齢者などが多く、また即座に検査結果の得られない訪問診療の現場では、原因が分からない症状を訴える患者へのアプローチの手段として漢方薬はとても有効です。さらに血液検査などの西洋医学的なフォローを併用して副作用のチェックや患者の病態把握を続けることで、東西医療の有効なパートナーシップが図れるとお話になっていました。

東洋医学研究会58
第5回(第157回) 9月17日(木) 「ストレスに対する漢方治療」 幸田 るみ子 先生
テーマ: 「ストレスに対する漢方治療」
講 師: 幸田 るみ子 先生  

 第5回目の東洋医学研究会の講師は、静岡大学人文社会科学研究科の 幸田るみ子 先生にお願いして、「ストレスに対する漢方治療」というテーマでお話しして頂きました。

 今年12月から労働安全衛生法の改正にともないストレスチェック制度が導入されます。現代社会においてストレスは避けて通ることは難しいといわれています。
ストレスを東洋医学的にとらえるときには“気”の乱れを整えるという意識が大切だそうです。例えば、のぼせやイライラ感が強い“気逆”の時には「黄蓮解毒湯」を、抑うつ気分や喉がつかえるような “気うつ”の時には「半夏厚朴湯」を、倦怠感が強い“気虚”の時には「補中益気湯」などを処方します。

 ストレスの対処法で最も大事なことは、“何が自分にとってストレスなのか”に気づき、そのストレスから“物理的に離れること”だそうです。また生活の中にリラクゼーションを取り入れるなどの工夫も効果的です。

東洋医学研究会59
第6回(第158回) 10月14日(水) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第6回目のテーマは「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」ということで、昭和大学病院で漢方外来を担当されている客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。

 鍼灸は世界中で広く施行されている代表的な代替医療のひとつです。近年、日本においても北里大学をはじめ多くの大学病院で取り入れられるようになってきました。アメリカ国立衛生研究所(NIH)から、体系的な教育と研究を経て用いれば効果が認められるという声明も発表されています。さらに今後は予防医学における活用も期待されているそうです。

東洋医学研究会60
第7回(第159回) 11月26日(木)  「日常診療で役に立った漢方治療の併用」 堀部 有三 先生
テーマ: 「日常診療で役に立った漢方治療の併用」
講 師: 堀部 有三 先生  

 第7回目の東洋医学研究会の講師は、メカマクリニックの 堀部有三 先生にお願いして、「日常診療で役に立った漢方治療の併用」というテーマで、閉塞型睡眠時無呼吸(OSAS)とパーキンソン病への応用例をお話し頂きました。

 閉塞型睡眠時無呼吸(OSAS)は、眠っている間に喉や気道が狭くなって呼吸が止まる病気で、夜間のいびきや、昼間の眠気、集中力の低下などの症状をともないます。経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)や歯科装具(マウスピース)を用いた治療が主流です。喉や気道の空気の流れの悪くなる原因のひとつにオトガイ舌筋の緊張低下があげられます。この点に着目して筋の緊張を高める『補中益気湯』をCPAPと併用した症例を紹介して下さいました。
 江戸時代の津田玄仙は、手足のだるさ、声の出にくさ、目の力の低下、口腔の泡沫などに『補中益気湯』が奏功することを説いています。この病態が、パーキンソン病の症状に一致することに堀部先生は着目しました。さらにパーキンソン病では、昼間の眠気が問題となり、薬によってはその症状を助長させてしまいます。そこで堀部先生は西洋薬に併用する形で『補中益気湯』を処方したところ、動きの改善と日中の眠気が改善されたということでした。

 西洋薬での治療で難渋した時に漢方薬の併用を考えてみるきっかけになればとお話しになっていました。

東洋医学研究会61
第8回(第160回) 12月16日(水) 「高齢者に役立つ漢方治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「高齢者に役立つ漢方治療」 講 師: 石野 尚吾 先生  

 第8回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学医学部客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、高齢者の漢方治療についてお話し頂きました。

 高齢者は多疾患を持つことが多く、また患者の生命活動が不足しがちです。そこで石野先生は虚証体質を改善する目的で補剤の漢方薬を処方されるそうです。例えば、骨粗鬆症や脊柱管狭窄症に起因する腰痛症を主訴とした高齢者の患者さんには、『八味地黄丸』や『牛車腎気丸』などの補剤を処方することで、痛みを抑えながら冷えなどの虚証体質の改善を図るそうです。

 高齢者は個人差が大きいのでその患者さんに合った薬用量を見極め、経過観察を密にして対応して欲しいとお話しになっていました。

東洋医学研究会62
第9回(第161回) 1月25日(月) 「耳鼻咽喉科領域で役立つ漢方」 時田 江里香 先生
テーマ: 「耳鼻咽喉科領域で役立つ漢方」
講 師: 時田 江里香 先生  

 平成28年の最初の東洋医学研究会は、昭和大学 医学部 耳鼻咽喉科学講座の 時田江里香 先生にお願いして、時田先生のご専門である耳鼻咽喉科で経験された症例を紹介して頂きました。

 慢性副鼻腔炎にともなう後鼻漏と痰に対して『荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)』、ステロイド治療や免疫抑制剤の使用に伴う咽頭違和感に対して『六君子湯』と『十全大補湯』を処方して症状が改善した症例をご紹介下さいました。また東洋医学では、耳は腎の窮数(きゅうすう)といわれ古くから腎との関連が深いのですが、高齢者はこの腎気の低下を補うことがとても大切になります。時田先生は症状だけを診るのではなく、患者の背景や体質を把握した処方を心掛けて下さいとお話しになっていました。

東洋医学研究会63
第10回(第162回) 2月25日(木) 「漢方・鍼の基礎研究から臨床へのヒント」 砂川 正隆 先生
テーマ: 「漢方・鍼の基礎研究から臨床へのヒント」
講 師: 砂川 正隆 先生  

 第10回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学 医学部 生理学講座生体制御学部門の 砂川正隆 先生にお願いして、「漢方・鍼の基礎研究から臨床へのヒント」というテーマでお話し頂きました。

 砂川先生は視床下部という脳から分泌が認められる“オレキシン”という物質に着目して検討をおこなっています。オレキシンは神経ペプチドのひとつで、適度に分泌されることで覚醒と睡眠、食欲と代謝などホメオスターシスを調整しているといわれています。しかしながら過度な分泌では生体にストレス反応(高血圧や高血糖など)を引き起こしてしまいます。砂川先生は鍼(円皮鍼)や漢方薬(抑肝散)などを適用することで、オレキシンの過度な分泌を抑制できるのではないかと考えています。

 さらにこの研究を通じて漢方薬は、投与量の違いで正反対の効果が現れた経験をされたそうです。このことから漢方薬は特に投与量の加減が大切というということを基礎研究の面から証明したいとお話しになっていました。

東洋医学研究会64
第11回(第163回) 3月1日(火) 「症例報告」
テーマ:  「症例報告」

◎ 「乳児痔瘻・肛門周囲膿瘍に対する十全大補湯による保存的治療の可能性」 
 昭和大学医学部外科学講座 小児外科部門 大澤 俊亮先生
◎ 「子宮筋腫による下部尿路機能障害に漢方治療が著効した一例」 
 昭和大学横浜市北部病院 産婦人科 土肥 聡 先生
◎ 「躁うつ病・関節痛・妊娠と妊娠に対する漢方治療」      
 昭和大学病院 漢方外来 高島 将 先生
◎ 「抗がん剤誘発性末梢神経障害に対する桂枝茯苓丸の奏功例」  
 昭和大学病院 漢方外来 渡辺 大士 先生

東洋医学研究会65

平成26年度

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第1回(第142回) 4月30日(水) 「漢方医学の基礎知識」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方医学の基礎知識」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 東洋医学を有効に使うためにも基礎概念はとても大切です。東洋医学の基礎は難解ですが、講演後に石野先生は多くの質問にお答えになっていました。次回の研究会では、東洋医学的な診断の方法を、実技をまじえて勉強する予定です。

 通算142回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。

 本年度最初の研究会ということで、はじめて漢方医学を学ぶ方々に必要な「漢方医学の基礎知識」をテーマにお話しいただきました。東洋医学の基本に“心身一如”という思想があります。これは「喜怒哀楽の感情の変化が病気を引き起こすことも、また治すこともある。」という考え方で、身体と精神は切り離すことができず、双方の調和を図ることの重要性を説いています。「病気を診るのではなく病人を診る。病気を治すのではなく病人を治す」 とよくいわれますが、患者の状態を全人的にとらえて治療方針を立てる東洋医学の考え方は、現代医学のモデルとして見直されています。特に現代医学における漢方の役割として期待されているのは、(1)原因が特定できない場合でも体質を改善していくことで治療効果が期待できる。(2)高齢者の体力増進を促す。(3)副作用が少ないことから慢性疾患に対しての長期投与が可能である。ことなどです。

 東洋医学を効果的に活用するためにも、この研究会を通じて東洋医学の考え方を身につけて欲しいとお話しになっていました。

東洋医学研究会66
第2回(第143回) 5月21日(水) 「漢方医学 -診察法-」  石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方医学 -診察法-」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第2回目の東洋医学研究会は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、東洋医学における診察法についてお話し頂きました。

 東洋医学では “望・聞・問・切”と呼ばれる“四診”によって診断をします。“望診”は視覚による診察法をさし、舌診が有名ですが、歩き方や姿勢など患者さんが診察室に入ってからの行動を広く観察します。“聞診”は聴覚を使って声や音の高低・強弱・異常等の特徴を聞くとともに、嗅覚を使って息・分泌物・排泄物の臭いからも患者さんの状態を確認していきます。“問診”は患者本人あるいは家族等に質問することで情報を聴取します。“切診”は触診を指しますが、東洋医学では脈診や腹診といった独特の方法で診察します。

 西洋医学では病名を判断して薬を決定しますが、東洋医学では“四診”を使って患者さんの全身状態から“証”を判断して漢方薬処方や鍼灸治療法を決定していきます。東洋医学では、疾病を時間的経過に従い動的に捉えているので、同じ疾病でも治療法が異なる場合があります。最近、東洋医学から派生した病気の前段階を示す“未病”という言葉を聞くことがあります。現代医学では予防医学のように捉えていますが、必ずしも病名がつかない状態であっても診察・治療することができる東洋医学の特長が生かされています。漢方治療を有効に活用する為には“証”に基づいた治療(随証治療)を心がけてもらいたいとお話しになっていました。

東洋医学研究会67
第3回(第144回) 6月11日(水) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬ミニ知識と漢方薬の作り方」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ生薬ミニ知識と漢方薬の作り方」
講 師: 石野 尚吾 先生
 第3回目の東洋医学研究会は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、漢方治療に欠かせない“漢方生薬の特徴”についてお話し頂きました。

 漢方薬は基本的に生薬と呼ばれる天然に存在する植物・動物・鉱物を使用します。講演では傷寒論や金匱要略という古典の中で記載されている“五性”について説明して頂きました。“五性”とは生薬が身体に及ぼす作用について、温めるか、冷やすかの度合いで分類する考え方で、すべての生薬は“温・微温・平・微寒・寒”の五段階に分類されています。例えば、炎症を治めるための処方には「黄蓮」や「大黄」などの“寒”に属する生薬が、逆に冷えを改善する処方には「附子」や「乾姜」などの“熱”に属する生薬が含まれています。特定の生薬や生成した成分だけを使用すると副作用が出やすいとされ、日本漢方では数種類の生薬を組み合わせて使用することが一般的です。

 講演の後半には、実際に煎じた漢方薬を参加者の皆さんで試飲して、市販のエキス剤と比較しながら、『煎じ薬』の香りと苦みを実感して頂きました。

東洋医学研究会68
第4回(第145回) 7月15日(火) 「ストレスに対する漢方治療」 幸田 るみ子 先生
テーマ: 「ストレスに対する漢方治療」
講 師: 幸田 るみ子 先生  

 通算145回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学 東洋医学科の 幸田るみ子 先生にお願いして、「ストレスに対する漢方治療」というテーマでお話し頂きました。これまでの3回の概論と異なり、少し各論的な講演内容でした。

 心身医学では「心身相関」といって身体と心の両面からのアプローチが大切とされているそうです。この考え方は東洋医学における「心身一如」に通ずると考えられます。発症や経過に心理的・社会的因子が関与して、器質的ないし機能的傷害が認められる病態を心身症と呼び、その代表的疾患には関節リウマチや胃潰瘍、喘息などがあります。例えば、東洋医学的に関節リウマチは “水毒・冷え・お血・気血両虚”など多様な病態と捉えられます。具体的な処方例としては、“水毒・冷え体質”の改善に「桂枝加朮附湯」を、“気虚”を補う為には「補中益気湯」を処方すると良いそうです。

 東洋医学では体内の“気”の異常がストレスをため込む要因の一つとされています。ストレスを全て排除することは出来ませんし、良いストレスは生命活動を活性化するといわれています。ストレスと上手につきあう手段の一つとして“気剤”などの漢方薬を利用する方法があることを覚えておきたいと思います。

東洋医学研究会69
第5回(第146回) 9月10日(木) 「在宅医療における漢方治療」 樫尾 明彦 先生
テーマ: 「在宅医療における漢方治療」
講 師: 樫尾 明彦 先生  

  第5回目の東洋医学研究会の講師は、和田堀診療所の 樫尾明彦 先生にお願いして、家庭医という立場から『訪問診療』『在宅での漢方治療の実際』『漢方診療と家庭医療との共通点』についてお話し頂きました。

 訪問診療とは主に緊急時に診察をおこなう往診とは主旨が異なり、通院困難な患者に医師が定期的に患者宅を訪問する医療形態で、樫尾先生は毎日10件程の訪問診療をされているそうです。在宅医療では採血はできても検査結果はすぐには分からない、画像検査ができないなどのデメリットがあります。しかし訪問診療では家族から患者に関する情報が得やすく、また薬の内服状況や生活状況などをみることもできます。対象患者の多くが高齢であるため不定愁訴や認知症をかかえることも少なくなく、漢方薬が適応となるケースが多いそうです。例えば、労作時呼吸苦に対して“補剤”として「補中益気湯」を、食欲不振に対して「六君子湯」を、認知症の周辺症状としての興奮性人格変化に「抑肝散」を処方されているそうです。

 訪問診療では、必ずしも病態の正常化を治療のゴールとせず症状を改善してQOLを上昇させることが重要であり、体質を改善して治療すすめる東洋医学の概念と一致することが多いということでした。患者や家族とのコミュニケーションを密にとり診療を進めるとともに、定期的に西洋医学的な検査をおこなって病態を把握することが大切です、とお話しになっていました。

東洋医学研究会70
第6回(第147回) 10月15日(水) 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第6回目の東洋医学研究会は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、 “鍼灸”についての概論をお話し頂き、講演の後半では鍼灸治療を実践して頂きました。

 鍼灸は鍼やモグサを使って生体を刺激して効果的な生体反応を惹起する施術法です。器質的な病理変化を元に戻すことはできないかもしれませんが、痛みや自律神経の失調などの機能的な病態を改善することを目標に用いられ、多くのエビデンスが得られています。実際に、腰痛症や変形性関節症などの痛み、耳鳴りやめまい、胎児位置異常(逆子)など、整形外科、耳鼻咽喉科、産婦人科など多くの診療科と連携することで効果が期待できる疾患も多く、鍼灸が医療の中で有効に活用できる方策を考えていく必要がありそうです。

 講義の後半では、肩こりや腰痛、女性科疾患に対する鍼灸治療を体験して頂きました。参加された皆さんは鍼が痛みなく刺さることや、施術によって刻々と変化する反応に興味津々だったようです。

 鍼灸治療は西洋医学とは異なる医療体系であること、また糖尿病患者の易感染性など有害事象などをふまえて適切に利用して欲しい、とお話しになっていました。

東洋医学研究会71
第7回(第148回)11月20日(木) 「神経内科領域に役立つ漢方治療」  講師: 堀部 有三 先生
テーマ: 「神経内科領域に役立つ漢方治療」
講 師: 堀部 有三 先生  

 第7回目の東洋医学研究会は、昭和大学 医学部 神経内科部門 兼任講師の 堀部有三 先生にお願いして、 “神経内科領域における漢方治療”というテーマで、先生の経験された神経内科疾患に対する漢方治療についてお話し頂きました。

 1症例目は、『筋萎縮性側索硬化症(ALS)』についてのお話しでした。ALSは筋に命令を伝える運動神経が冒される病気で、筋肉の萎縮にともない諸症状が現れます。現在のところ残念ながら有効な根治治療はなく対症療法となりますが、「芍薬甘草湯」がこむら返りなどの筋痙攣を抑えたり、「半夏厚朴湯」が嚥下をスムーズにするなどの効果があるそうです。ALS患者にとって症状の軽減や進行を抑えることは不安や絶望感を軽減させるうえでとても大切で、漢方が有用であるとお話しになっていました。

2例目は、2013年に国際頭痛分類ではじめて存在が認められた『前庭性片頭痛』についてのお話しでした。前庭性片頭痛は5分~72時間持続する嘔気やめまいなどの前庭症状に片頭痛症状がともなう疾患で、全人口の1%が罹患していると推計されています。メニエール秒の有病率が0.1%ですのでその約10倍、“めまい”を訴える患者さんの約1割を占めるとても頻度の高い疾患です。病気の本態は、脳の神経ペプチドが血管拡張をおこすと同時に前庭器官に影響すると考えられています。そこで漢方処方としては、片頭痛の治療に準じて“水毒とお血”を改善させる目的で「当帰芍薬散」などが奏功するそうです。

東洋医学研究会72
第8回(第149回) 12月4日(木) 「高齢者に役立つ漢方治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「高齢者に役立つ漢方治療」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 第8回目の東洋医学研究会は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いして、「高齢者に役立つ漢方治療」というテーマでお話し頂きました。

 高齢者の疾病の特徴としては、(1)疾患が複数かつ不定愁訴である、(2)個人差が大きい、(3)慢性的である、(4)生体防御機能が低下している、なとの共通点があります。これらの問題に対して漢方治療は、(1)一つの方剤で多くの薬効をもつ、(2)体質(証)に合わせて処方する、(3)薬効が緩徐なので長期投与が可能である、(4)免疫賦活作用を併せ持つ方剤が多い、という点で有益であると考えられます。また高齢者の治療では、自立性の維持し、全人的に日常生活動作や精神的状況の改善を目標とすることから、体質改善や未病のうちから治療をおこなう漢方治療の目標と一致します。

 漢方薬の適応について紹介しますと、東洋医学では、多くの場合、老化にともなって『腎』の機能が低下した“腎虚”という状態(証)になると考えられ、このような時には不足している気や血を補う目的で“補剤”が処方されます。具体的には、「八味地黄丸」「十全大補湯」「補中益気湯」などを処方して体力を補うことに努めます。また“腎虚証”の特徴として腰痛が随伴する時には「牛車腎気丸」などが奏功することもあるので“証”を見極めると良いと思います。

 江戸時代に健康指南書として書かれた『養生訓』の中で、長生きの秘訣は「身体を適度に動かすこと」と「食事・色欲・睡眠は適度にすること」が記されています。現代医学的に解釈するならば、高齢者医療では疾病の発生を予防することが重要ということになると思います。漢方治療を上手く利用して“未病治”を是非実践してもらいたいとのことでした。

東洋医学研究会73
第9回(第150回) 1月26日(月)  「耳鼻咽喉科領域に役立つ漢方治療」 時田 江里香 先生
テーマ: 「耳鼻咽喉科領域に役立つ漢方治療」
講 師: 時田 江里香 先生 
 第9回目の東洋医学研究会は、昭和大学 医学部 耳鼻咽喉科学講座の 時田江里香 先生に “耳鼻咽喉科領域に役立つ漢方治療”というテーマで「耳・鼻」におけるトピックをお話し頂きました。

 耳にまつわる疾患として“めまい”と“耳鳴り”についてのお話しでした。漢方治療の対象となるめまいは良性発作性頭位めまい症やメニエール病などの“末梢性めまい”が中心で、気血水の不調にともなって発症することが考えられます。症状が軽度であれば“水”の調節として「五苓散」を、“血虚”をともなう場合には「真武湯」や「半夏白朮天麻湯」「苓桂白朮湯」「連珠飲」などを処方されるそうです。東洋医学的に耳鳴りは “腎虚”にともなって発症することが多いとされ、「牛車腎気丸」や「桂枝茯苓丸」などが処方されます。めまい・耳鳴りともに中枢性の疾患に随伴することも多いので鑑別が重要だそうです。

 次に鼻にまつわる疾患として“アレルギー性鼻炎”、“慢性副鼻腔炎”、“嗅覚障害”についてのお話しでした。時田先生の研究テーマでもありますアレルギー性鼻炎は日本人の約40%が罹患する国民病です。以前から「小青竜湯」の効果が知られていましたが、近年、時田先生の研究からサブスタンスPやCGRPといった炎症性物質の分泌を抑える作用があることが分かってきました。また慢性化してしまった鼻症状の代表である慢性副鼻腔炎ですが、古来より“鼻淵”や“濁涕”として認識されていたようです。東洋医学的には“水毒”や“気うつ”、“お血”などを基盤として発症すると考えられています。頭痛をともなう増悪期には「麻黄剤」が処方されますが、慢性期には「荊芥連翹湯」を処方します。また嗅覚障害をともなう時には「当帰芍薬散」が奏功することがあり、西洋医学的な適応疾患の鑑別と東洋医学的な“証”による鑑別をしっかりとおこなって欲しいとのことでした。

東洋医学研究会74
第10回(第151回) 2月19日(木) 「痛みに関する漢方薬の基礎・臨床研究」 砂川 正隆 先生 ・ 岡田 まゆみ 先生
テーマ: 「痛みに関する漢方薬の基礎・臨床研究」
講 師: 砂川 正隆 先生 ・ 岡田 まゆみ 先生

 第10回目の東洋医学研究会は、「痛みに関する漢方薬の基礎・臨床研究」についてでした。

 はじめに、痛みに関わる基礎研究について昭和大学生理学講座生体制御学部門の砂川正隆先生がお話されました。炎症や器質的な異常に伴う痛みが長引いて慢性痛に移行してしまうことがあります。この時、中枢神経内ではミクログリアやアストロサイトが出現して痛みを感じやすくすることが知られています。種々の漢方薬に含まれる生薬の『附子』にはこれらのグリアの出現あるいは活性化を抑制する可能性があるとのことでした。

 次に、昭和大学病院麻酔科の岡田まゆみ先生にペインクリニック領域での漢方薬の応用についてお話し頂きました。手術後に続く慢性的な痛みに対してモルヒネなどの鎮痛を目的とした薬剤が投与されることが多いのですが、『抑肝散』を併用することで術後のせん妄抑制効果によりモルヒネ耐性を軽減する効果が期待されるそうです。痛みが慢性化した時には精神的にもダメージを受けます。ペインクリニックでは痛みを取ることを目標にしますが、漢方薬を上手に使うことで全人的なケアが出来る可能性があるとのことでした。

東洋医学研究会75
第11回(第152回) 3月24日(火) 「症例報告」
テーマ: 「症例報告」
◎「顎関節症治療科からの症例報告」 
 昭和大学歯科病院 顎関節症治療科 渡邊 友希 先生 
「漢方外来での漢方薬の使用例」  
 昭和大学医学部 生理学講座(漢方外来) 吉田 宜生 先生
◎「術後咳嗽に対する漢方薬使用例」 
 昭和大学病院 呼吸器外科 南方 孝夫 先生 
◎「漢方治療により背部痛が著効した授乳婦症例」 
 昭和大学附属横浜市北部病院 産婦人科 土肥  聡 先生 

 今年度最後の東洋医学研究会において「各科からの報告」が行われました。

 最初の講師は、昭和大学歯科病院顎関節症治療科の 渡邊友希 先生でした。歯科関連領域での漢方薬応用についてはあまり知られていませんが、平成24年度から「立効散・半夏瀉心湯・黄連湯・茵陳蒿湯・五苓散・白虎加人参湯・排膿散及湯」の7種が歯科関連薬剤として収載され、口内炎や口渇、歯槽膿漏などの改善に用いられています。この他にも昭和大学歯科病院では患者の全身症状を改善する目的で補剤など数種類の漢方薬を処方しているそうです。歯科は口腔内だけの症状にとらわれがちですが、時として全身症状を把握しながら治療をおこなうことが必要ですと必要があるとのことでした。

 2人目の講師は、昭和大学病院で漢方外来を担当されている 吉田宜生 先生でした。過敏性腸症候群の患者に対して「小建中湯」を処方して長年続いていた過度の下痢症状の軽減を図れた症例や、器質的に異常の見られない四肢の冷感としびれを訴える患者さんに「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」を10年にわたって処方して自覚症状が改善された症例を紹介して頂きました。各症状に対して“証”を見極めて使い分けること、また血液検査やサーモグラフィなど客観的評価を行いながら治療を進めることで長期にわたり患者が安心して漢方薬を使用し続けることができたのではないか、とお話になっていました。

 3人目の講師は、昭和大学呼吸器外科の 南方孝夫 先生でした。肺切除などの呼吸器手術後には朮分の炎症や咳嗽が出現してその痛みなどから患者のQOLが損なわれることが少なくありません。一般的には非麻薬性鎮咳薬や弱オピオイド(リン酸コデイン)が投与されますが、喀痰の減少による肺炎のリスクを高めてしまいます。そこで南方先生らは気管支喘息などに用いられる「麦門冬湯」を応用して、咳の回数を減少させることで術後の症状の早期安定を図っているそうです。西洋薬のデメリットを漢方薬が補うという日本ならではの症例報告でした。

 4人目の講師は、昭和大学附属横浜市北部病院産婦人科の 土肥 聡 先生でした。授乳婦の胸背部痛に対して漢方薬を応用した症例を紹介して下さいました。痛み症状の他に、育児による疲労感や寒冷症状、汗が出にくいという収斂性が認められたため、表症と水滞をともなう痛みという観点から「麻黄湯」を処方したところ2週間後には疼痛は軽減したそうです。実は「葛根湯」や「桂枝茯苓丸」では症状を改善しなかったために「麻黄湯」を選択したということから『随証治療』の大切さを感じたそうです。また“麻黄”はエフェドリンを含みますので授乳移行することもあるので注意して使用して欲しいとのことでした。

東洋医学研究会76

平成25年度

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第1回(第131回) 4月16日(火) 「漢方医学の基礎」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方医学の基礎」
講 師: 石野 尚吾 先生 
 通算131回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。

 石野先生は、日本の東洋医学を長きに渡って牽引してこられ、現在も鍼灸や漢方薬を中心に治療をおこなっていらっしゃいます。本年度最初の研究会ということで、はじめて漢方医学を学ぶ方々に必要な「漢方医学の基礎」をテーマにお話しいただきました。

 東洋医学は患者さんをパターンに分類して治療をおこないます。このパターンを「証」、治療法を「方」とよびます。西洋医学との違いは『病名』をしなくても治療を行えることです。診断の基本は、急性の病では「陰・陽(代謝の状態)」「虚・実(気力の状態)」「寒・熱(疾病の性質)」を把握することが重要とされ、脈診などを中心に判断します。慢性の病では「気・血・水」の状態を把握することが重要とされ、舌診や腹診を重視します。また「気」は呼吸・消化吸収・神経系の機能に、「血」は循環器系・ホルモンなどの分泌系の機能に、「水」はリンパ液・免疫系の機能に関わると考えられ、3つのバランスをとることを目的として治療をおこないます。日本漢方では診察の進め方は、陰陽・虚実などの概念に基づいて身体全体の「証」を確かめ、舌診・脈診・腹診をおこなって個別の「証」を確認し、最終的に処方(方)を決定していきます。この方法を『方証相対』といい、「当帰芍薬散」を処方したということは、「当帰芍薬散」が合う“体質”だと判断したということになります。

 東洋医学を有効に使うためにも基礎概念はとても大切です。東洋医学の基礎は難解ですが、講演後に石野先生は多くの質問にお答えになっていました。次回の研究会では、東洋医学的な診断の方法を、実技をまじえて勉強する予定です。

東洋医学研究会77
第2回(第132回) 5月14日(火) 「漢方の診察法」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方の診察法」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 通算132回目の東洋医学研究会の講師は、前回に引き続いて昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。

 今回は「漢方の診察法」というテーマでした。今年度2回目ということで参加者の多くが東洋医学の初学者でしたので、講演の前半は漢方における基本的な診察法の講義、後半は実際の診察実技の見学という構成でした。

 現在の中国で行われている東洋医学を“中医学”と呼びますが、半世紀ほどの歴史しかありません。日本においては鍼灸と漢方薬が各々独自の発展を遂げました。漢方薬を患者さんに処方する方法を比較すると、中医学では生薬を自由に組み合わせて処方します(弁証論治)。それに対して日本では傷寒論などの古典的な文献に基づいて生薬を一定の割合で混ぜてカクテルにしたものを処方します(方証相対)。

 日本漢方において独自の進化を遂げた診察法に「腹診」があります。中医学ではほとんど行いません。漢方での腹診では、腹力(腹筋の強さ)、動悸(大動脈の拍動)を診たり、胃内停水(胃のチャポチャポ音)を確認することで患者さんの元気さ(虚実)を推測します。また下腹部の異常な腹壁の突っ張りや押されたときの痛みなどで“お血”の有無を判定したりします。講演の後半の実技では、参加者の方を患者さんにみたて、石野先生に腹診を実演して頂きました。腹部臓器の異常を判定するのが目的である西洋医学の腹診と異なる優しいタッチの東洋医学の触診に皆さん驚いていました。

 次回は、昭和大学 薬学部 生薬学・植物薬品化学の鳥居塚先生に実際に漢方薬を作って頂いて、皆さんで味見をしてみたいと思います。

東洋医学研究会78
第3回(第133回) 6月11日(火) 「生薬ミニ知識と漢方薬の作り方」 鳥居塚 和生 先生
テーマ: 「生薬ミニ知識と漢方薬の作り方」
講 師: 鳥居塚 和生 先生  

 通算133回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学 薬学部 生薬学・植物薬品化学 教授の 鳥居塚和生 先生にお願いしました。

 講演のテーマは「生薬ミニ知識と漢方薬の作り方」ということで、実際に漢方薬(小建中湯・桂枝茯苓丸)を作りながら、生薬と漢方薬についての概論をお話しして頂きました。

 日本の漢方薬は、いくつの生薬を組み合わせて方剤という形で処方されます。今回の講演で煎じて頂いた“小建中湯”は、「桂皮・芍薬・甘草・生姜・大棗」という生薬で構成されていて、虚弱体質で、貧血、動悸、冷えを感じる腹痛の患者さんに処方されるお薬です。“桂枝湯”や“桂枝加芍薬湯”も構成生薬は同じなのですが、含まれる生薬の割合が異なります。虚弱体質の方が対象という点は共通ですが、“桂枝湯”は風邪の初期の患者さんに、“桂枝加芍薬湯”はしぶり腹の患者さんに処方されるお薬で、生薬が同じでも割合が違うと効果も変わってしまうことがわかります。

 日本の漢方薬は『傷寒論』『金匱要略』などの古典に基づいて、複数の生薬を一定の割合で混ぜてカクテルにして用いるのが特徴です。これらの書物には、剤形や煎じるときの生薬の順番や加熱時間などが細かく記載されているのですが、その一つ一つの技法に意味があると考えられていて、それらを解析することも鳥居塚先生の教室の仕事の一つです。

 今回の講演では、生薬を見て・触って・食べて、鳥居塚先生が作ってくれた桂枝茯苓丸と小建中湯を口に含みながら、普段目にする漢方エキス剤と比較して頂きました。次回は、漢方薬とともに東洋医学の一端を担う、「鍼灸」について勉強してみたいと思います。

東洋医学研究会79
第4回(第134回) 7月2日(火)  「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 平成25年度4回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生にお願いしました。

 今回は「医師・薬剤師・医療従事者に役立つ鍼灸治療」というテーマで、講演の前半は漢方における基本的な診察法の講義を、講演の後半は実際に鍼灸の施術を見学させて頂きました。

 日本で鍼灸の施術をおこなうには、鍼灸の国家資格あるいは医師の国家資格をもっていることが必要です。期待される効果として、鎮痛作用、自律神経調節作用、血流改善作用、免疫作用などが挙げられ、『神経痛、リウマチ、腰痛症、五十肩、頚腕症候群、頚椎捻挫後遺症』の6疾患には保険が適応されます。石野先生が北里大学でおこなった臨床試験では発症から1週間以内の腰痛に対して著効を示す結果が得られたそうです。この他にも沢山のエビデンスが報告されていて、昭和大学生理学講座では鍼による鎮痛作用やリウマチに対する免疫学的な作用機序などの解明が進められ、基礎研究と臨床研究を結びつける研究(トランスレーショナルリサーチ)も盛んにおこなわれています。統合医学という観点から鍼灸を取り入れていくためには、現代医学の各科とどのように協力し合えるかを探っていくことが必要であると、お話しになっていました。

 講演の後半には、石野先生による鍼灸の診察(脈診)と刺鍼を見学しました。鍼治療を初めて見た参加者は、最初は半信半疑だったようですが、刺鍼とともに変化する脈状を感じてみたり、皮膚に赤みがさす様子を目の当たりにして、鍼灸の効果を実感していたようです。

東洋医学研究会80
第5回(第135回) 9月6日(金)  「夏ばてに対する漢方治療」  樫尾 明彦 先生
テーマ: 「夏ばてに対する漢方治療」
講 師: 樫尾 明彦 先生  
 通算135回目の東洋医学研究会が開催されました。講師は、大井協同診療所の 樫尾明彦 先生で、今回は「夏ばてに対する漢方治療」というテーマでお話し頂きました。

 樫尾先生は『家庭医療(家庭医)』の専門医をされていて、プライマリケア外来に漢方薬を積極的に取り入れて治療をされています。家庭医療では比較的年齢の高い患者さんが対象であるうえに、病名がつかない疾患にも対応しなければならず、漢方治療が応用しやすいそうです。講演ではプライマリケア外来の実際の診察をロールプレイで実演して頂きましたが、とても丁寧に問診をされる様子が印象的でした。


 今年の夏のような暑さが続くと熱中症や全身の倦怠感を訴える患者が増えてきます。熱中症は、西洋医学による対症療法が適しますが、疲労感などを含む不定愁訴には西洋医学での治療は難しくなります。特に近年は『新型・夏ばて』といって、冷房や冷たい飲食物、不規則な生活などが原因となり、自律神経障害を伴う症状も多く、東洋医学による治療適応が増えているそうです。暑さで食欲がない消耗性疾患の方には『清暑益気湯』、暑い中で労作中にめまいを伴う患者さんには『半夏白朮天麻湯』、また水毒症状が強い方には『五苓散』などを処方されるそうです。

 夏ばては誰しもが経験するものですが、第一義的に治療を考えるのではなく、薄着や過剰な冷房で身体を冷やさない、適切な食事を摂る、スポーツなどで汗をかくなど、生活の中から“予防”することに努めて欲しいとお話しになっていました。

東洋医学研究会81
第6回(第136回) 10月22日(火) 「生活習慣病・糖尿病における漢方の対応について」 菅野 丈夫 先生・石野 尚吾 先生
テーマ: 「生活習慣病・糖尿病における漢方の対応について」
講 師: 菅野 丈夫 先生・石野 尚吾 先生 
 平成25年度6回目の東洋医学研究会は「糖尿病に対する漢方的アプローチ」というテーマで開催されました。

 講演の前半は、昭和大学病院 栄養科の 菅野丈夫 先生に「糖尿病に関する食事指導」についてお話し頂きました。
国民の4人に1人以上が糖尿病もしくはその予備群といわれ、全糖尿病の95%以上を占める2型糖尿病は、遺伝的要因とともに生活習慣がその発症に関わるといわれています。糖尿病の治療は、薬による治療をおこなうよりも、食事・運動を含む生活習慣の管理が大変重要です。特に糖尿病における食事療法は、年齢・性別・病型・合併症の有無や程度に関係なく、適正なエネルギーと栄養バランスの整った食事をとるのはもとより、規則的な食事の習慣を身につけることが治療効果を高めるそうです。この考え方は東洋医学の『未病を治す』という考え方に通ずるところがあると思います。

 講演の後半は、昭和大学 東洋医学科の 石野尚吾 先生に「生活習慣病・糖尿病における漢方の対応」についてお話し頂きました。糖尿病を治す漢方薬は残念ながらありませんが、その増悪因子を調整したり体質の改善を目的として処方されることがあるそうです。糖尿病治療における漢方薬による応用として、肥満症の改善薬として“防風通聖散”が処方されます。また口渇などの自覚症状の改善に“八味地黄丸”、神経障害などの合併症の予防や治療に“牛車腎気丸”や“桂枝茯苓丸”、消化器症状を整えるために“六君子湯”などを処方することがあるそうです。但し患者さんがどのような体質なのかしっかり把握して処方しなければ大きな効果は期待できないそうです。“気・血・津液”にもとづいて『証』をたてたうえで処方を行ってほしいとお話になっていました。

東洋医学研究会82
第7回(第137回) 11月14日(木) 「認知症に対する漢方治療」 堀部 有三 先生
テーマ: 「認知症に対する漢方治療」
講 師: 堀部 有三 先生
 通算137回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学 漢方外来・神経内科の 堀部有三 先生にお願いしました。
今回の講演は「認知症に対する漢方治療」というテーマで、認知症の病態生理をふまえた治療法と漢方薬の適応についてお話しして頂きました。

 認知症は、後天的な脳の器質的障害により正常に発達した知能が低下してしまう病態で、85才以上の4人に1人が患っているといわれています。認知症の症状を大きく分類すると「中核症状」と「周辺症状」の二つがあります。中核症状とは、脳の神経細胞の障害にともなって発生する“失認”や“記憶障害”などの症状をさし、認知機能が障害されるために現実を正しく認識できなくなります。また周辺症状は、患者さんの性格や環境、人間関係などの要因がからみ合って起こる、“うつ状態”や“妄想”といった心理面・行動面にあらわれる症状をさします。臨床においてはこの「周辺症状」に漢方薬が適応されることが多いそうです。

 「アルツハイマー型認知症」や「レビー小体型認知症」では周辺症状に対して一般的には向精神薬が処方されますが、高齢の認知症患者のイライラ、易興奮性などの症状に“抑肝散”“が有効であることが報告されています。また「血管性認知症」では”当帰芍薬散“などが症状を改善するそうです。
 認知症の多くは高血圧や糖尿病との因果関係が指摘されていることから、普段から減塩に努めるなど生活習慣に気をつけて欲しいとお話されていました。

東洋医学研究会83
第8回(第138回) 12月3日(火) 「不眠に対する漢方的アプローチ」 幸田 るみ子 先生 

第8回(第138回) 12月3日(火) 「不眠に対する漢方的アプローチ」 幸田 るみ子 先生  

テーマ: 「不眠に対する漢方的アプローチ」
講 師: 幸田 るみ子 先生 
 第8回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学 漢方外来を担当されている 幸田るみ子 先生にお願いしました。

 今回の講演は「不眠に対する漢方的アプローチ」というテーマで、漢方薬の適応についてお話しして頂きました。
現代社会では、人工光での生活や昼夜を問わない勤務などが原因となって生物学的な体内時計の乱れが生じて、睡眠障害を誘発しているといわれています。さらに睡眠不足は、耐糖能の悪化や脳内レプチンの低下をまねき、生活習慣病の誘因となることがわかってきました。

 東洋医学的には不眠は“気”の異常との関連性を考えることが大切です。例えば、のぼせやイライラ感が強い“気逆”の時には「黄蓮解毒湯」を、抑うつ気分や神経質な“気うつ”の時には「柴胡加竜骨牡蠣湯」を、疲れて熟睡感がない“気虚”の時には「桃核承気湯」を、また体質的に虚証タイプの方の場合には「半夏厚朴湯」や「加味逍遙散」などを処方します。

 厚生労働省が発表した睡眠障害対処の指針をみると、1.睡眠の長さ・就寝時間にあまりこだわらない、2.自分自身のリラックス法をみつける、3.同じ時間に起床する、4.起床時に光を取り入れる、5.規則正しく食事を摂る、6.昼寝は15時前迄の30分未満にとどめる、7.深酒・寝酒を避ける、8.睡眠薬を適宜使用する、と紹介されています。睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグ症候群(安静時の足のむずむず感)などが疑われる時には専門医への受診が必要ですが、まず生活習慣を見直すことが大切です、とお話されていました。

東洋医学研究会84
第9回(第139回) 1月14日(木) 「泌尿器科領域の漢方治療」 小川 良雄 先生
テーマ: 「泌尿器科領域の漢方治療」
講 師: 小川 良雄 先生  

 第9回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学 医学部 泌尿器科学講座の 小川良雄 先生にお願いしました。

 泌尿器と漢方には関連が深く、特に東洋医学における“腎”は排泄器としてだけでなく成長や発育を司るとされ、腎の機能が低下するいわゆる“腎虚”の状態は生命体としての元気がないことを示します。

 泌尿器科領域において、尿路不定愁訴や痙攣性疾患に対しては漢方薬を優先的に、前立腺肥大症や尿失禁などにも漢方薬を単独で使用することがあるそうです。例えば、前立腺肥大症や過敏性膀胱の頻尿あるいは切迫性尿失禁に「八味地黄丸」や「牛車腎気丸」がよく使われます。また器質的問題がなく自覚症状が残存するような慢性膀胱炎に対しては「猪苓湯(中間証~実証)」「猪苓湯合四物湯(中間証~虚証)」などが適応となります。また虚証タイプの男性更年期や腎下垂を虚証の時には「補中益気湯」などの補剤が奏功するそうです。

東洋医学研究会85
第10回(第140回) 2月25日(火) 「消化器領域における漢方医学的アプローチ」 吉田 仁 先生
テーマ: 「消化器領域における漢方医学的アプローチ」
講 師: 吉田 仁 先生  

 第10回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学 医学部 内科学講座消化器内科学部門の 吉田仁 先生にお願いしました。

 一般的に、胃腸虚弱な方や高齢者は西洋医薬を用いると胃腸障害が起こりやすく、漢方薬が適すると考えられています。胃下垂傾向のあるいわゆる“虚証”タイプの方には人参・附子・桂皮を含む「人参湯」や「補中益気湯」、「六君子湯」を用います。また栄養状態良好な実証タイプの方には、黄蓮・柴胡・黄?などを含む「黄蓮解毒湯」や「小柴胡湯」、「柴胡桂枝湯」などを用います。

 症候別にみると、慢性胃炎や機能性ディスペプシアに対しては「六君子湯」が、過敏性腸症候群に対しては「柴胡桂枝湯」や「半夏瀉心湯」などが、逆流性食道炎に「安中散」が奏功するといわれています。また下部消化管症状の痔疾・脱肛に対して「補中益気湯」や「乙字湯」などが適応となることがあるそうです。

 慢性肝炎や肝硬変の際の疲労倦怠感や食欲不振の回復、肝線維化の予防を目的とした漢方治療の有効性が報告されていますが、インターフェロンなどによる他の治療との併用できない漢方薬もあるので、医師と相談のうえ使用して欲しいとのことでした。

東洋医学研究会86
第11回(第141回) 3月4日(火) 「症例報告」
テーマ: 「症例報告」
◎「安中散経口投与がCYP3A4に及ぼす影響」 
 昭和大学付属烏山病院 臨床薬理研究センター  内科 戸嶋 洋和 先生 
◎「月経随伴症状と漢方治療の使用経験」   
 昭和大学病院 産婦人科 宮上 景子 先生      
◎「漢方外来での漢方薬の使用例」      
 昭和大学病院 漢方外来 芳田 悠里 先生 
◎「肛門周囲膿瘍に対する漢方療法の検討」  
 昭和大学病院 小児外科 小嶌 智美 先生 

 今年度最後の東洋医学研究会において「各科からの報告」が行われました。
 
 最初の講師は、昭和大学付属烏山病院臨床薬理研究センター 内科の 戸嶋洋和 先生でした。
戸嶋先生は薬の飲み合わせについて薬剤代謝に関与する酵素のCYP3A4(チトクロームP450ファミリー)の動態に着目して研究されています。有名な事例としてはグレープフルーツの成分によってCYP3A4が阻害されて、血圧を下げるカルシウム拮抗薬の代謝が遅れて低血圧などの副作用が出ることがあります。戸嶋先生方の研究によると胃腸薬として処方されることの多い「安中散」にも、CYP3A4の作用を阻害する物質が含まれていて、薬物の代謝に影響する可能性が認められたそうです。今後は、漢方薬と他の薬の飲み合わせについても考えていく必要があるとのことでした。

 2人目の講師は、昭和大学産婦人科の 宮上景子 先生でした。
月経随伴症状に対する漢方治療について紹介して下さいました。月経随伴症状は、水分貯留、血糖値の急激な低下、セロトニン分泌量の低下などが関連するといわれています。そこで東洋医学を応用して“水毒・お血・気うつ”を改善することを目的に、「桂枝茯苓丸」「当帰芍薬散」などの駆お血剤が処方されますが、“気うつ”の傾向が強い時には「加味逍遙散」が奏功することが多いとお話しになっていました。

 3人目の講師は、昭和大学病院で漢方外来を担当されている 芳田悠里 先生でした。
西洋薬で治療に難渋し、漢方治療で症状が改善した症例を紹介して下さいました。慢性頭痛の訴えに対して“虚証のお血”と見立てて「当帰芍薬散」を処方したところ4週間後に頭痛症状が軽快したそうです。次に子宮筋腫摘出後の腹痛を訴えに対して「桂枝茯苓丸」を処方したところ症状が軽快したそうです。下腹部の“お血”と判定したことが奏功につながったとお話しになっていました。

 4人目の講師は、昭和大学小児外科の 小嶌智美 先生でした。
乳児の肛門周囲膿瘍に対して切開による排膿が主流ですが、痔瘻に進展したり、手術の後遺障害問題になることも有ります。小嶌先生方は、急性期には鎮痛と抗炎症を目的に「排膿散乃湯(0.3mg/kg)」を処方して排膿および炎症が軽快するまで4週間ほど投薬を継続します。また肛門周囲膿瘍は再発することが多いので、症状軽快後は体力増進と免疫力の改善を目的に「十全大補湯(0.3g/kg)」の投薬を2-3ヶ月続けるそうです。再発防止のためにも投薬期間を十分とることが必要ですとのことでした。

東洋医学研究会87

平成24年度

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第1回(第120回) 4月17日(火) 「漢方医学の基礎知識」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方医学の基礎知識」
講 師: 石野 尚吾 先生
 通算120回目の東洋医学研究会が行われました。講師は、昭和大学客員教授、昭和大学病院で漢方外来を担当されている 石野尚吾 先生でした。

 当研究会は年間を通して参加していただくと、漢方についての知識が身に付くように構成されています。今年度の最初の講演ということで、はじめて漢方医学を学ぶ方々にも興味をもっていただけるように「漢方医学の基礎知識」をテーマにお話しいただきました。

 はじめに、漢方医学の歴史・西洋医学との違い・日中韓での相違点など漢方医学の概論を紹介していただきました。日本では、西洋医学の医師が漢方薬や鍼灸など東洋医学の治療をおこなうことができます。この制度は世界的にめずらしく、医療現場で治療法が効率よく選択できる利点があります。近年漢方薬は、副作用が少なく長期投与が可能である点から慢性疾患に対して処方されたり、免疫賦活や機能を補う目的で老人性疾患に用いられたり、原因が特定できない不定愁訴の患者さんに体調を総合的に改善する目的で処方されるそうです。

 次に漢方診療に必要な最低限の基礎知識についてお話しいただきました。漢方治療を行う際には、患者の状態を東洋医学独特な「陰陽」「虚実」という病態で分類し、「気・血・水」という仮想的病因論で生体内の異常を見つけ、漢方特有の『証』を選別して漢方薬の処方を決定します。この東洋医学の難解で取っつきにくい概念を石野先生は一つ一つ具体例を挙げて説明してくれました。また講演の最後の質疑応答では沢山の方の質問に石野先生が丁寧に答えていました。きっと東洋医学が身近に感じられたのではないでしょうか。
次回の研究会では、東洋医学的な診断の方法を、実習をまじえて勉強する予定です。

東洋医学研究会88
第2回東洋医学研究会(第121回) 5月15日(火) 「漢方医学 -診察法-」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「漢方医学 -診察法-」
講 師: 石野 尚吾 先生
 今年度2回目の東洋医学研究会の講師は1回目に引き続き、昭和大学客員教授 石野尚吾 先生にお願いして、東洋医学を学ぶうえで必要な基礎知識の紹介と実際の診察の実技をおこなって頂きました。

 漢方薬や鍼灸などの漢方医学では、四診という方法で診察を行います。四診法は望診・聞診・問診・切診で構成されます。望診は、舌の色や患者さんの全体の様子や寝ている姿などを目で確認することを指します。聞診は、患者さんの発する臭いや呼吸音などを診ることを指します。問診は、現代医学における問診と同様ですが、どんな疾患・症状でも全身の状態を聞き、食欲の有無や冷え感など元気(体力)があるかどうかを聴取することが大切になります。また切診とは、触診にあたるもので脈診や腹診のことをさします。脈診では病気の進行度や患者の体力、疾病の予後を把握するそうです。また腹診では、腹壁の弾力性や振水音などの情報を得て全身の状態(虚実)を把握します。特に慢性疾患で有効と考えられているそうです。

 西洋医学では診断した後に「病気名」をつけますが、東洋医学では「証」を決定していきます。証とは患者の「体質」を分類した表現方法です。西洋医学では「病気」を治療の対象と考え、病気と健康の間で線を引いて、治療をおこないます。ところが東洋医学では、「病気」と「健康」は連続していて、それが低下すると病気の状態に至ると考えます。

 講演の後半では、石野先生の腹診を見学しました。西洋医学と全く異なる東洋医学の腹診に皆さん驚いていました。

東洋医学研究会89
第3回(第122回) 6月12日(火) 「漢方処方の生薬と作り方」 鳥居塚 和生 先生
テーマ: 「漢方処方の生薬と作り方」
講 師: 鳥居塚 和生 先生  

 通算122回目の東洋医学研究会が行われました。講師は、昭和大学 薬学部 生薬学・植物薬品化学教授の 鳥居塚和生 先生でした。

 毎年、鳥居塚先生には生薬を用いた漢方薬作りを実践していただいています。今年度は、小建中湯と桂枝茯苓丸を作っていただきました。小建中湯は、腹痛をともなう虚弱体質のタイプの方に処方される漢方薬で、「桂皮(シナモン)、芍薬、甘草、生姜、大棗、膠飴」で構成されます。桂枝茯苓丸は、血行を改善する効果があるといわれ、生理不順、頭痛、足の冷えなどに対して処方されます。「桂皮、芍薬、茯苓、桃仁、牡丹皮」という5つの生薬で構成されています。小建中湯と桂枝茯苓丸では3つの構成生薬が同じですが、それぞれ薬効は異なります。生薬の組合せを変えることでいろいろな身体の状態(証)に対応する薬になることが分かります。

 神農本草経という薬物学の古い書物のなかで、生薬は上品(上薬)・中品(中薬)・下品(下薬)に分類されています。上品は生命を養う目的の薬で、短期間で効果は出ず、長期間服用して効果が少しずつあらわれる。中品は体力を養う目的の薬で、体質(証)に合えば副作用は出にくく、病気を予防して虚弱な身体を強くする。下品は急性の病気を治すために用いる薬で、毒性(副作用)を持つので長期にわたる服用は好ましくないとされています。また現在、漢方薬といえばエキス剤が多く用いられます。本来の漢方薬の形状は、内服薬だけでも「湯液(煎じ薬)」「散薬(粉薬)」「丸薬」などがあります。それぞれの形状によって効能が異なるといわれているそうです。漢方薬を上手に使用するためにも副作用や飲み方に注意して欲しい、とお話しになっていました。

東洋医学研究会90
第4回(第123回) 7月3日(火) 「生活習慣病(血液サラサラ)と漢方治療」 砂川 正隆 先生
テーマ: 「生活習慣病(血液サラサラ)と漢方治療」
講 師: 砂川 正隆 先生 
 平成24年度4回目の東洋医学研究会が行われました。講師は、昭和大学 生理学講座 生体制御学部門の 砂川正隆 先生でした。
生理学的な血液の性状と生活習慣病の観点からお話しいただきました。

 東洋医学で、人の健康は「気、血、水」の三大要素で成り立つと考えられています。「気」は生きていくための生命力と解釈されます。気が不足して「気虚」となると“元気”が無くなり、気が滞って“気滞”になると“うつ状態”になります。「血(けつ)」は主として血液と解釈され、循環器系や内分泌系の機能を調節するのに必要です。「水」は水分の総称と解釈され、流れが滞って「水毒(水滞)」になると手足のむくみや立ちくらみなどを生じると考えられています。鍼灸や漢方薬は「気・血・水」のバランスを整えて病気を改善します。

 気滞・水滞などは「お血」を引き起こすことがあります。お血とは「血」の円滑な働きが障害された状態と解釈され、血管障害、神経痛、婦人科疾患、歯周病など多くの生活習慣病との因果関係が指摘されています。代表的なお血を改善する漢方薬(駆お血薬)には「桂枝茯苓丸」「桃核承気湯」「当帰芍薬散」などがあります。砂川先生の研究室ではこれらの駆お血薬が血液に作用してサラサラの状態にする作用機序を研究中だそうです。トランスレーショナルリサーチ(臨床と基礎研究の橋渡し)という観点からも重要な研究として注目されています。

東洋医学研究会91
第5回(第124回) 9月11日(火) 「医師・薬剤師に役立つ鍼灸治療」 石野 尚吾 先生
テーマ: 「医師・薬剤師に役立つ鍼灸治療」
講 師: 石野 尚吾 先生  

 平成24年度5回目の東洋医学研究会は「医師・薬剤師に役立つ鍼灸治療」というテーマで、昭和大学客員教授の 石野尚吾 先生に講師をお願いしました。石野先生のお父様は、骨盤位(逆子)に対して鍼灸が有効であることを世界に向けて発信された統合医療のパイオニアで、石野先生ご自身もこれまでWHO(世界保健機構)における経穴部位の決定などを含め、鍼灸の発展に尽力されています。

 今回の講演では“現代医学との関連性”を中心にお話しいただきました。

 現在、鍼灸治療は世界の多くの国で医療に取り入れられています。日本では国家資格をもつ鍼灸師に加え、医師も鍼灸を用いて治療を行うことが出来ます。近年では鍼灸大学に加えて、多くの医学部で代替医療あるいは統合医療として鍼灸が学習されており、鍼灸を取り入れている大学病院も少なくありません。現代医学においては、腰痛や変形性膝関節症などの疾患において整形外科と、耳鳴・目眩・難聴などの疾患において耳鼻咽喉科と連携を図ったりするなど、入院患者のケアを含め広く浸透してきています。これにより多くの臨床報告がおこなわれ、飛躍的にエビデンスが向上しているそうです。

 さらに“鍼灸が何故効くのか”という謎を解き明かす基礎研究もまた活発になされるようになってきています。鍼灸を用いた鎮痛効果や血流動態の改善、免疫作用の強化など、昭和大学からも多くの研究成果が発信されています。

 鍼灸治療は、器質的な変化を改善することは難しいですが、疾患による痛みなどの機能的変化や冷え・のぼせなどの不定愁訴の改善に対して期待のできる治療法です。但し、施行に対しては、臨床技術の習得だけでなく、折鍼時の対応や糖尿病患者の易感染、抗血小板薬投与者の出血など現代医薬との併用によって生じる過誤への配慮を必ずおこなって欲しいと強調されていました。

東洋医学研究会92
第6回(第125回) 10月25日(木)  『「危ない・安心」な頭痛・しびれと漢方治療』 堀部 有三 先生
テーマ: 「「危ない・安心」な頭痛・しびれと漢方治療」
講 師: 堀部 有三 先生  

 通算125回目の東洋医学研究会が行われました。講師は、昭和大学医学部神経内科および昭和大学病院で漢方外来を担当されている 堀部有三 先生でした。

 今回の講演は、「危ない・安心」な頭痛・しびれと漢方治療というテーマで、頭痛としびれについての病態生理をふまえた漢方治療の適応についてお話しいただきました。

 「しびれ」はどうしておこるのでしょう。先生によると“しびれ”を担当する特別な神経があるわけではないそうです。実は、血流の不足にともなって末梢神経がパニック状態に陥ってしまうと、デタラメな情報が発信されてそれを受け取った「脳」が「しびれ」と感じてしまうそうです。“正座で足がしびれる”のはこのパターンです。漢方医学では水滞・お血・腎虚、長期にわたる場合は気の異常を考えて処方します。これに対して脳血管障害や腫瘍にともなう“怖いしびれ”は基本的には単独の四肢(単肢)には生じにくいのですが、脱力を伴ったり、同側の上下肢がしびれたり、顔面がしびれたりする場合には精査が必要だそうです。

 「頭痛」はヒトが直立二足歩行をすることでおこるようになったといわれ、ゴッホやルイス・キャロルをはじめとした多くの著名人も頭痛に悩まされていたようです。しかも1万年以上も前の新石器時代には開頭手術がおこなわれた痕跡も残っていて、古くから頭痛をともなう疾患の治療がされていた可能性があるそうです。頭痛には、片頭痛・緊張性頭痛・群発頭痛などの一次性頭痛と脳の器質的疾患をともなった二次性頭痛があります。意識障害や精神症状、発熱などを伴っている場合には後者の“怖い頭痛”の可能性がありますので緊急の精査が必要です。漢方薬が適応となるのは一次性頭痛で、片頭痛には「呉茱萸湯」、緊張性頭痛には「釣籐散」などを処方するそうです。一次性頭痛に解熱鎮痛薬を安易に使用すると長期的には症状を悪化させてしてしまう可能性があるので漢方薬をうまく応用してみて下さい、とのことでした。

東洋医学研究会93
第7回(第126回)第7回(第126回) 11月13日(火) 「注意が必要なうつ症状と漢方治療」 幸田 るみ子 先生
テーマ: 「注意が必要なうつ症状と漢方治療」
講 師: 幸田 るみ子 先生  

 第7回目の東洋医学研究会の講師は、昭和大学客員教授、昭和大学病院で漢方外来を担当されている 幸田るみ子 先生でした。

 今回は、「注意が必要なうつ症状と漢方治療」というテーマでお話しいただきました。

 精神医学的に「うつ病」は、気分の落ち込みや意欲低下などの“心の症状”と不眠や疲労感などの“からだの症状”によって日常生活に支障を来す精神疾患です。仕事や健康・家族・生活状況など身近な出来事が、うつ病のきっかけになることが多いそうです。「中等度以上のうつ病」の治療では、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬などの薬物療法が選択されます。それに対して「軽度のうつ病」では、一般的に抗うつ薬は選択されず、心理教育や日常生活指導などが優先されますが、確立された治療法が存在していないということが問題となります。さらに思いどおりに物事が運ばない時に自責の念が強く現れる「従来型のうつ病」に対し、「現代型うつ病」とも称されるディスチミア症候群という病態は、環境や他人のせいにしようとする傾向が強いのが特徴で、軽症に見えるのですが抗うつ薬も効かず、確立した治療法がありません。

 うつの症状を漢方の「気・血・水」で考えると、抑うつ気分は“気うつ”、易疲労感などは“気虚・血虚”、不安焦燥感などは“気逆”というように「気の異常」との関わりが大きいことが分かります。またうつ病時の身体症状から、目眩や吐き気があれば“水毒”、肩こりや冷えが強ければ“お血”、疼痛の存在は“血虚”などをともなっていると考えることができます。「軽度のうつ症状」であれば「半夏厚朴湯」「香蘇散」「加味帰脾湯」を処方したり、必要であれば抗うつ薬と併用して経過をみるそうです。但し、「重症のうつ病」や「再発性のうつ病」、「躁うつ病」に対して漢方単独での治療は非常に危険です。患者さんは精神科の受診を敬遠してしまうことも多いですが、できるかぎり精神科医と相談しながら治療をおこなって欲しいということでした。

東洋医学研究会94
第8回(第127回) 12月6日(木) 「プライマリ・ケアに役立つ漢方治療」 樫尾 明彦 先生
テーマ: 「プライマリ・ケアに役立つ漢方治療」
講 師: 樫尾 明彦 先生 
 今年度8回目の東洋医学研究会がおこなわれました。講師は、医療生協 家庭医療学レジデンシー・東京大井共同診療所の 樫尾明彦 先生でした。樫尾先生は本学の漢方外来で漢方治療を学ばれたあと、ドイツへ留学され、帰国後は地域住民の健康を支える“家庭医”をめざして現在も研修を続けていらっしゃいます。

 プライマリ・ケアでは高齢者を中心とした慢性期の患者さんを対象として治療にあたることが多いため、気の滅入りや冷え、食欲の低下、認知症にともなう興奮(イライラ)状態など、西洋医学では明確な診断がつかなかったり、治療法に対するエビデンスが確立していない“症候”にも対応しなければならなかったりするそうです。そこで体質を改善することをめざす「漢方治療」への依存度が必然的に高くなります。

 実際のプライマリ・ケアにおける漢方治療の流れとしては、外来で四診による東洋医学的な診察と西洋医学的精査をおこなったのち、漢方治療を含めた治療を開始します。4週間ごとに血液検査などで症状の経過や副作用をチェックし、治療の継続の可否を決定しているそうです。

 訪問による診察では、ドアノブ・コメントというコミュニケーションの形が出来やすいそうです。患者さんの診察に加えてその“ご家族”などから「私もこのごろ血圧が高いのだけど、どんな漢方薬が効くのかしら・・・」というように診察室では声が掛けづらいお医者さんに対して気軽に質問を投げかけることで、地域に根付いた家庭医ならではの「医師-患者関係」が構築されるそうです。但し、往診では精査ができませんので安易に答えるのではなく、西洋医学的な検査を促してから治療を始めるように促すことが大切だと思います、と話されていました。

東洋医学研究会95
第9回(第128回) 1月23日(水) 『「体力・免疫力アップ」の漢方治療』 講師: 世良田 和幸 先生
テーマ: 『「体力・免疫力アップ」の漢方治療』
講 師: 世良田 和幸 先生  

 通算128回目の東洋医学研究会が行われました。講師は、昭和大学 横浜市北部病院 副院長の 世良田和幸 先生でした。今回のテーマは

『「体力・免疫力アップ」の漢方治療』ということで、身体機能が低下した時に用いられる漢方薬についてお話し頂きました。

 東洋医学では“気”という概念をもちいます。西洋医学的に“気の異常”をとらえると、自律神経系の異常や停滞によって引き起こされる異常な症状と考えられます。“気”の異常は、気の力が弱まる「気虚」、気の巡りが弱まる「気滞」、気の巡りが良くなりすぎる「気逆」の3群に分けられます。このうち「気虚」の状態では、精神活動の低下や全身の倦怠感があらわれると考えられていますので、私たちのいう「元気の無い状態」に近い概念だと思います。

 このような全身倦怠感のあるときに漢方治療では、補剤というものをもちいます。胃腸の調子が悪いときには『補中益気湯』や『六君子湯』などのような“胃脾”をいたわるような成分を含む処方を、術後や産後、出血などをともなっているときには『十全大補湯』や『帰脾湯』などのような“血”を補うような成分を含む処方をすると良いそうです。

 “気”という概念はとらえにくいものですが、世良田先生は沢山の例を挙げながら丁寧に説明して下さいました。その中で食物から得られる精(水穀の精微)と吸い込んだ空気(天空の精気)から元気(真気)が作られるというくだりがありました。呼吸を整えると、心の状態(情動)も良くなって、ストレスを改善することが出来るということが分かってきています。昔の人は鋭い観察力を持って臨床に生かしていたのだなと感心してしまいました。

東洋医学研究会96
第10回(第129回) 2月19日(火) 「消化器領域における漢方治療」 伊東 友弘 先生
テーマ: 「消化器領域における漢方治療」
講 師: 伊東 友弘 先生 
 通算129回目の東洋医学研究会が行われました。講師は、昭和大学横浜市北部病院 救急センター内科の 伊東友弘 先生でした。

 今回のテーマは「消化器領域における漢方治療」ということで先生の臨床報告を中心にお話しいただきました。今回の講演では、咽喉頭異常感症と機能性ディズペプジアについて紹介していただきました。

 咽喉頭異常感症は、咽喉頭部や食道の狭窄感、異物感、不快感などを訴える機能的な疾患で、精神的要因やアレルギー、更年期障害などが原因と考えられています。一般的な治療としては、精神的要因に対する抗不安薬や抗うつ薬、炎症やアレルギーに対して抗炎症薬や抗アレルギー薬、心理療法などが選択されます。東洋医学的には“気滞”ととらえて気剤である「半夏厚朴湯」を処方したり、炎症をともなうのであれば「柴朴湯」を処方したりします。また元気がない場合(虚証タイプ)には「茯苓飲合半夏厚朴湯」などを処方するとよいそうです。

 機能性ディスペプジアは、器質的異常がないにもかかわらず、胃の痛みやもたれ感などの症状が慢性的に続いてQOLが低下してしまう疾患です。胃の運動機能障害や知覚過敏、ストレス負荷、ピロリ菌などが原因と考えられています。東洋医学的には“心下痞(心窩部のつかえ感)”を解消する目的で、人参や黄連、黄?などを含む方剤を処方するそうです。具体的には、体力がありそうならば「半夏瀉心湯」を、虚弱な体質の方には「六君子湯」を処方します。

 症状が似ていても、患者のタイプ(証)にあわせて処方を考えることが大切ですと強調されていました。

東洋医学研究会97
第11回東洋医学研究会(第130回) 平成25年3月5日(火) 「症例報告」
テーマ: 「症例報告」
昭和大学 漢方外来 岩波 弘明 先生              
日本大学 医学部内科学系 総合和漢医薬分野 上田 ゆき子 先生  
◎ 東京慈恵会医科大学附属病院 総合診療部 川井 美恵 先生 ・ 足立 秀樹 先生    

 今年度最後の東洋医学研究会は例年同様に「症例報告会」が行われました。

 最初の講師は、昭和大学病院で漢方外来を担当されている 岩波弘明 先生でした。
膝痛に対して「防已黄耆湯」が、便秘に対して「大建中湯」と「当帰芍薬散」が、夜間頻尿に対して「八味地黄丸」が著効を示した例について報告されました。近年、多くの文献で「大建中湯」が便秘に効果を発揮するという報告されています。今回の報告では途中で患者さんに片頭痛の症状がではじめたことをきっかけに「当帰芍薬散」に処方を変更されています。主訴だけにとらわれず、患者さんの体調を全体的に把握して処方をおこなう大切さをお話になっていました。

 2人目の講師は、日本大学医学部内科学系総合和漢医薬分野の 上田ゆき子 先生でした。
冷えをともなった頭痛に「呉茱萸湯」を、冷えをともなったむくみに「防已黄耆湯」を処方された例について紹介してくださいました。実はこの2症例ともに治療当初は良い経過をたどらなかったそうです。2人の患者さんに共通していたのは食事の不摂生であることが『食事日記』からわかり、栄養面と東洋医学的な観点から身体を温める食事法を心がけていただくことで症状が改善されました。日本では医食同源といいますが、漢方治療は薬の処方だけなく適切な食事を摂ることが大切だということをあらためて実感する講演でした。

 3組目の講師は、東京慈恵会医科大学附属病院総合診療部の 川井美恵 先生と 足立秀樹 先生でした。
排便前の強い腹痛と食後の肛門痛に対して「小建中湯」から「大建中湯」に、腹痛と腰背痛に対して「小建中湯」から「桂枝茯苓丸」に、筋肉痛に対して「四逆散」から「六君子湯」に処方を変更した例について報告していただきました。処方が一回で決まらないときや症状が時間の経過とともに変化するときには、 “虚実“や”寒熱“あるいは”気血水“など東洋医学の診察の基本に戻って再考する大切さをお話になっていました。

東洋医学研究会98